第20回】欲望という名の満員電車(前編)

「ハジの多い人生」、今回は趣向を変えて、岡田さんが温めているというビジネス書の企画の構想を公開いたします。弱冠6歳で満員電車に揺られて通学する日々を決定づけられた岡田育さんが、満員電車通学から学んだ人生に大切なこととは? 出版関係者のみなさんは出版の打診を、それ以外のみなさんもぜひ出版希望の投書を!

 『6歳のときに知っておきたかった人生に必要な知恵はすべて満員電車が教えてくれた—ラッシュを生き延びるための哲学』というタイトルの本を構想中である。高校野球の女子マネージャーをしていなかったのが悔やまれるが、萌え系の絵師にランドセルを背負ったセーラー服の美幼女を描いてもらって装幀に使う予定である。

 ほとんど完璧といってよい企画概要をTwitterへ連投してからもうだいぶ経つのに、驚くべきことに、まだどこの出版社からもオファーが来ない。もしかして読み逃した編集者もいるかもしれないので、あらためて幾つかの章の内容を挙げながら全体像をご紹介しよう。もし万が一どこからもお声がかからずベストセラーの夢が藻屑と消えても、私にはこのエッセイの原稿料だけは発生するという寸法である。


第1章/乗るとなったら覚悟を決めよ

 小学校から女子ばかりの私立校へ入学した。いわゆる「お受験」をしたことになるが、正直あまり記憶がない。親曰く、自宅から徒歩圏内にある評判のよい幼稚園へ入れてみたら、そこがいわゆる「進学幼稚園」だった、とのこと。言われてみれば、放課後お迎えを待つ間にやたらと知能テストを受けさせられた記憶がある。その延長線上で、休みの日にどこかへ出かけて似たような知能テストを受けた記憶もある。それが「受験」で私は「合格」したのだと知ったのは、卒園間近の春のことだった。

 同じ組に「ぼくはけいおうようちしゃにいくんだぜ!」と胸を張る男児(およびその親)がいて、「へー、もう年長も終わりかけなのに、今から京王線沿線の幼稚園に転校するんだ、遠いね」と思っていた。もしかして小学校へ進学できなかったのか、これがりゅうねんってやつかしら、とも思っていた。まさか彼らと同じエスカレーターに足を乗せていたとは露知らず。黒革のランドセルが届くまで、自分はてっきり、これまた自宅から徒歩圏内にある公立小学校へ進学すると信じていたのだ。赤いランドセルが背負えないなんて聞いてない! 電車通学ってなんだよ!

 ここに、満員電車という不思議な存在が我々にもたらす、最初の教えがあるように思う。すなわち、学区越境の小学生であれ、新社会人であれ、あるいはベテランの企業戦士であっても、「それに乗りたくて乗る者はいない」「けれど人には、いつか必ず、それに乗らねばならぬ春が来る」。どうせ避けられぬ運命ならば、早めに受け容れたほうがよい。重要なのは心のありよう、つまり、どのようにその運命と対峙するかである。そもそも、満員電車に乗ること自体には、まったくと言ってよいほど意味がない。無駄である。無益である。百害あって一利ない。やめればよい。でもやめられない。ならば、みずからの心に問いかけながら、そこに新たな価値を見出せばよい。その覚悟が、あなたに最初の「力」をもたらすであろう。

 ちなみに私の場合、この膠着したシステムに対するたった一つの冴えたソリューションは「まったくかわいくない黒いランドセルの後に届いた制服を着てみたら超かわいかったので、この学校に通ってやってもいいかな、と思った」であった。我ながら、じつにブレイクスルーなイノベーションを予感させるフロントランナーならではのキュリオシティドリヴン思考である。ビジネス書の文体ってこういう感じでいいんですかね。続かないけど続けます。


第2章/呼吸の乱れは生命の乱れ、体軸のブレは人間のブレ

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ハジの多い人生

岡田育

趣味に対する熱量の高いツイートと時事に対する冷静な視点でのツイートを自在に繰り出すWEB系文化系女子okadaicこと岡田育。 普通に生きているつもりなのに「普通じゃない」と言われ、食うに困らず生きているのに「不幸な女(ひと)」と言わ...もっと読む

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コメント

cnomiya2009 前編メモ。…むむ。有料会員じゃないので途中まで…。書籍「ハジの多い人生」やはり入手せねばならんかー。→ 約4年前 replyretweetfavorite

okadaic 春ですね。満員電車にまつわる素晴らしい漫画が流れてきたので超拡散します。 http://t.co/nxdlnD3CJT ついでに私が書いたこちらもどうぞ……。 4年以上前 replyretweetfavorite

mizutag 同じく憧れの赤いランドセルを背負えなかった身にはかなり沁みた。たしかに小学生時代の満員電車通学で強く逞しい礎を築いた気が。 5年弱前 replyretweetfavorite

Yutaka_Kasuga ビジネス書にするより地域の教会で日曜朝の説教ネタに採用された方がいいくらいの緻密な教訓噺… →欲望という名の満員電車(前編)|岡田育| 5年以上前 replyretweetfavorite