いつも、何気なくつくっている「目玉焼き」。目玉焼きくらいはできる、という方も多いでしょうが、実は目玉焼きは完璧につくるのが難しい料理の一つです。その理由は黄身と白身という異なるタンパク質を、それぞれ適切な温度まで加熱しないといけないから。いつもの味で充分に満足という方も、たまには基本に戻って目玉焼きを練習するのはいかがでしょうか。上手にできた目玉焼きはちょっと驚くほどの味です。
おいしい目玉焼きをつくるために、まず知りたいのは卵のこと。スーパーでは白い卵と赤玉と呼ばれる茶色の卵が売られていますが、この違いは鶏の種類によるもので、同じ餌を食べていれば味や栄養価はほぼ同じ。
黄身の濃さはどうでしょう。黄身の色が濃いとなんとなく良さそうですが、カロテノイド色素を含む飼料を与えれば色は濃くなるので、こちらも味とは関係ありません。
味とは関係ない、と言えば、メディアなどで「黄身が箸でつまめるほど濃厚」という卵を見かけます。たしかに、健康な鶏ほど黄身の膜が強い卵を産みます。しかし、木酢液など酢酸成分を多く含む飼料を与えることで、箸でつまめる卵を人為的につくることも可能なので、あまり参考にはなりません。
また、卵の鮮度がいいほど、卵黄膜はしっかりしています。とはいえ、鮮度がいい卵には二酸化炭素が多く含まれているため、味という点ではいまいち。料理には適さないのでしばらく置いてから使うのが賢明です。
現在、養鶏場では飼料にハーブや海藻を混ぜるなど様々な工夫を施し、オリジナリティを出しています。一般的に輸入のトウモロコシを多く食べさせると黄身の色が濃いこってりした味に、飼料米を食べさせると黄身の色は薄くなりますが、臭みが少なく、さらりとした味わいになります。ただ、濃い黄身の色が好きな日本の消費者には後者の卵はまだ普及していません。
いずれにせよ、卵の味は飼料×飼育環境で決まります。安い卵を生産するためには、狭い場所にたくさんの鶏を押し込め、飼料もそれなりのものを与えるしかありません。つまり、ちょっと高い値段の卵を購入するのがおいしい卵を入手する唯一の方法、というわけ。あとは好みですが、濃厚な卵は洋風に、さっぱりした卵は和風にという具合に料理に応じて使い分けましょう。
卵は平らな面で割る
買ってきた卵は普通、冷蔵庫で保管しますが、ドアポケットの卵置き場にはうつさないこと。卵は振動に弱いので、買った時に入っていたパックのまま安定した場所で保存します。昔は「ざらざらしている卵は鮮度が良く、つるつるだと古い」と言われていましたが、現在市販されている卵は洗卵という工程を経ていることが多いので、あまりあてになりません。一番は割ってたしかめること。
卵を割るときは必ず平らな面に当てるようにします。殻が細かく砕け、内側に入るリスクを減らすことができるからです。間違ってもボウルの縁などで割らないようにしましょう。
黄身が輝く理想的な目玉焼きのつくり方
卵を調理する際に、理解しておくべきはタンパク質の凝固温度。卵黄は65℃〜75℃で、卵白は60℃〜80℃で凝固します。特に卵白は80℃を超すとゴム状に硬くなりはじめるので注意が必要です。
2003年に亡くなったフランスの名シェフ、ベルナール・ロワゾーは、あるテレビの料理番組でこんな目玉焼きのレシピを発表しています。
『バターを溶かした耐熱皿に水小さじ1を加え、塩、胡椒を振る。そこに白身だけを流し、ゆっくりと加熱する。白身が固まったら、その上にそっと卵黄を載せ、今度は低温のオーブンで加熱する。卵黄が凝固せずに、しかも充分に温まった状態になったらとりだし、周りにバルサミコ酢を数滴、落とす』
この料理番組のホストを務めていた有名シェフのジョエル・ロブションは、この料理を「偉大なシェフの仕事」と絶賛しましたが「白身と黄身を分けて加熱する」というのはまさにコロンブスの卵的発想。
このレシピと比べると小学校の家庭科の時間で習う『油を入れたフライパンを熱し、卵を割り入れる。少しの水を注いだら蓋をして、弱火で2〜3分間、焼く』という目玉焼きの作り方は、ずいぶん乱暴な加熱方法だとわかります。
卵のタンパク質を凝固させることが目的であれば高温での加熱は必要ありません。理想的な目玉焼きは白身が完璧に固まり、黄身は充分に温まっているが滑らかさを保っている状態。実際につくりながら、説明していきます。
黄身が輝く目玉焼き
材料(一皿分)
卵 2個
バター 小さじ1(4g)
塩、胡椒 適量
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