雪はほとんど降らないが、氷点下の日が続く冬。朝晩は草も木も全てが凍る。
長い長い冬
長野県の冬は驚くほど寒く長かった。東京から引っ越して来た私たちが最初につまずいたのが、冬の寒さであった。この辺りは年間降水量が全国的にも少ない地域で、雪は殆ど降ることがない。だが、冬が凍てつくように寒い。と言うより痛いに近い。2月の一番冷える日はマイナス15度にもなり、厳冬期は常に氷点下の世界で、0度を上回る日が少なくなってしまう。洗濯物を外に干したらそのまま凍ってしまい、タオルが吹いていた風の向きでそのまま固まっていたこともあった。そうか、冬は外に洗濯物は干してはいけないのだな。知らなかった。今まで生きてきた中で作られた常識が長野に引っ越してきたことでどんどん崩れ去り、そういう予想外の出来事に出会うたびになんだかわくわくして楽しくなった。
東京から新幹線でたった1時間ほどの地域でこんなにも気温も生活も違う。10月頃から冷え込む日がちらほらと出てきて、冬が本格的になるのが12月からで4月まで寒い。5月にストーブをつける日もある。東京と静岡にしか住んだことがなかった私は、日本の懐の広さに驚いた。小諸市のアパートから東御市御牧原の一軒家に移り住むと、また一段と寒さが増す。遮るものが何にもない御牧原の風を、まるで全身で受け止めているような気持ちになった。冬の手前に庭木の植え付けが完了し、私たちの新しい生活が始まった。長野に来てから5年が経過したアパート生活にピリオドを打ち、新居での新しい暮らしが始まったのだ。
かつて誰も住んだことのない新居は、冷え冷えとしていてとても寒く感じた。構造材から冷え切った冷蔵庫のような室内が、生活することで暖かくなっていくと言う。アパートと違って生活スペースがとても広い。天井も高いし、隣接している家もない。合理的に暮らしていくことを選ぶのならば、駅近くのアパートやマンションを賃貸で借りるのがベストなのだろう。だが、私たち夫婦は田舎で自然の中で暮らすことを選択した。少しの面倒や憂鬱は我慢しなければならない。ここを選んだと言うことはそういうことなのだ。
しかし私たちは、便利も捨てることのできない欲張りだった。現代的な高スペックの家を建てつつ、自給自足までは目指さない中途半端な畑への取り組み方、肩の力が抜けた現代的な田舎暮らしを目指そうと心がけた。田舎暮らしにつきもののログハウス+薪ストーブは選択しなかったのが、その意思の現れだったのかもしれない。
西の空にうっすらと北アルプスが映り、月が浮かぶ。昼と夜の合間。