なんでこれが美味しいんだって思ったんだろ?
ウニやナマコを初めて食べた人はすごい、そういう話をときどき耳にします。割ったら美味しそうな卵巣が顔を出すウニはともかく、粘液に包まれ、触ると内臓を放出して威嚇するナマコを超の付く高級食材に仕立てた古の人々には、本当に頭が下がります。
このナマコやウニのように、野食材の中には、見た目や質感からはとてもその味を想像することができないようなものが少なからずあり、食べるとそれを見出した先人の偉大さを痛感させられます。
ぼくも日々、そういう食材に出会いたい、それを見出した人として歴史に名を刻みたい、そういう欲望のもとに人が食べないようなものを食べているのですが、なかなか一朝一夕にかなう願いではないようです。
これからも頑張ってヘンなものを食べていきたい所存です。
さて今回は、今の時期に採れる「よくそれを食べたな……」という食材について、話していきたいと思います。
「パンツを履いた〇〇」VS「パンツすら履いていない〇〇」
梅雨の時期、竹やぶに行くと、いくつかの変わったキノコに出会うことができます。
その中でも最も変わっていると言って良いのが、キヌガサタケというきのこ。
細かい説明をする前に、まずは写真を見ていただきましょう。
くさ美しい
すごいでしょ?
地上の卵状のものから突き出た白い柄の先端に、亀の頭を彷彿とさせるようなパーツがつき、そこには黒くべったりとした海苔のようなものが付着しています。
そして先端の下部から、白いレース状の膜が地上まで垂れ下がって広がっています。
見た目もさることながら、この先端部分が非常にくさいのです。
臭いの表現は嗅いだ人によって異なりますが、個人的には「化学的に合成した人糞臭」のイメージです。友人は恥垢臭に近いと言っていました。いずれにしてもかなり強烈です。
こんなにきれいなのに
このキヌガサタケは、その臭いによって昆虫などの小動物を引き寄せ、先端の部分についた胞子を含む粘液(グレバという)を食べさせます。そうすることで胞子が体内に取り込まれ、その小動物の排泄物や死骸を経由して拡散されます。そうやって子孫を増やす手法を取っているのです。
見た目のインパクトが強すぎるこのキノコ、学名もやはりちょっと変わっていて「Phallus indusiatus」直訳すると「パンツを履いた陰茎」となります。