91 山々の情景(秋)
92 山間部・高速道路建設現場・はずれ
昼休み。ひと気のない高架の高速道路上を、弁当を持ってきた多満子と萩原が歩く。
多満子「お~すごいできてる。もうすぐ完成?」
萩原「まだまだずっと先まで。何年もかかるよ」
多満子「……じゃあ、まだ何年もいるの?」
萩原「……他にいい仕事もないし、仕方ないかな」
多満子「(嬉しい)残念だね」
萩原「……言っとくけど、大会に出るのは次が最後だから。体がもたない」
多満子「分かってる」
萩原「絶対勝とうな」
多満子「……(苦笑)変な奴だね」
萩原「何が?」
多満子「だって、ハギには大会目指す理由なんて何にもないのに、キツイ練習、毎日毎日」
萩原「……本当だ……なんで俺やってんだ」
多満子「(笑いながら)知らないよ」
萩原、真剣な目で多満子を見つめている。
多満子「……」
萩原「もしかしたら……好きになっちゃったのかもな」
多満子「……」
萩原「卓球が」
多満子「おぉぉ……それはよかった」
突然の驟しゅう雨う。
かと思いきや、主任たちが重機の散水車で水を撒いている。
多満子と萩原もホースで反撃。全員ずぶ濡れ。
はしゃぐ多満子と萩原──。
93 山彦町・情景(冬)
94 フラワー卓球クラブ
多満子と弥生、モップをかけている。
多満子は足取り軽くやっている。
弥生「(その多満子の様子に微笑む)」
そこに「すみません」と母娘が訪ねてきた。
弥生「はい、体験ですか?」
聖子としおり。
聖子「いえ、あの、こちらで萩原久がお世話になってると伺ったんですが」
多満子「(はっとする)」
× × ×
多満子と弥生、聖子としおりにお茶を出して話している。
聖子「……ご迷惑かけてませんか?真面目にやってますか?」
弥生「頑張ってますよ、ハギ」
しおり「ハギだって。ハギって呼ばれてるんだお父さん」
弥生「(苦笑)ゴメンなさい」
聖子「……この子、なんだかんだ言って、なついてるんですよね、あの人に……」
しおり「だっていつまでも許さないのは可哀想じゃん」
多満子「……」
聖子「取引先に、彼を雇いたいと言って下さってるところがありましてね……彼には勿体ないようなところなんだけど」
多満子「……」
弥生「……」
聖子「だからさっき彼の職場にもこっそり行って評判を伺ってきたんです。どうですか、彼……?」
弥生「……」
多満子「……とっても真面目ですよ。みんなで飲みに行っても一滴も飲みませんし、仕事も卓球もとっても頑張ってます……いつもお二人の写真を肌身離さず持ってます」
弥生「……」
しおり「(嬉しい)」
聖子「じゃあ、呼び戻してあげようか」
しおり「やった!」
聖子「面接で落とされるかもよ、あの人ネクタイなんか持ってないから」
しおり「大丈夫、私が選ぶから」
弥生「……あの……ちなみに、いつですか、面接?」
聖子「次の日曜日です。新宿の本社で」
弥生「……(思わず多満子を見る)」
多満子「……」
壁に掛けてあるカレンダー。次の日曜に印がしてあり、『決戦!』などとある。
多満子「……」
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