起業して失敗する人」に共通する残念な考え方

サイバーエージェント、ZOZOTOWN、ユニクロ、電通が実は、ある「共通の起業法」を用いてた!? 「独立して失敗する人」「会社を3年未満でつぶす社長に共通すること」――。 サイバーエージェントで全社MVPを獲得し、起業した会社を半年で70人に、3年で180人規模に育てた、『起業3年目までの教科書』 の著者がすべてを明かします。


(著者:株式会社トライフォート代表取締役CEO 大竹慎太郎) 

 これはある若者の話だ—。

 彼は大学四年生の夏に、志の高い友人たちとともに、ITベンチャーを立ち上げた。スマートフォン向けのゲームアプリを開発する会社だ。幼少の頃よりゲームが好きだった彼は、卒業後はゲームをつくる仕事をしたいと思っていた。だが、新卒採用を行っている大手ゲーム会社やIT企業に就職することはなかった。なぜならプログラミングの才能があったからだ。

 彼は自分がやりたいと思う面白いゲームを、自分ひとりでつくることができた。在学中には、簡単なパズルゲームなどをいくつか開発し、実際に発表していた。広告をつけることで少しの収入も手にしていた。その経験から、自分はこれで生きていけると確信した。「パズドラ」や「モンスト」を超えるスマホゲームを企画し、大きなゲーム会社をつくるんだ! そう夢に燃えた。

 会社の立ち上げ前に、知り合いのつてをたどってある有名なIT起業家に会えることになった。その会社のシンプルだが豪華なしつらえの社長室で、つくったばかりの名刺を丁重に渡した。自分でプログラムを書くことができること。ゲームが好きで好きでたまらないこと。最初は少ない人数で始めようとしていること。自分の能力と実績、そして今後自分がやろうとしている事業について話した。

 10分ほど話したところで、相手の起業家はこういった。

 「世の中そんなに甘いもんじゃないよ」

 彼は、「はは、すみません」と謝った。もちろん簡単に会社が軌道に乗るとは思っていない。だが、やる気と自信、そして彼のこれまでの助走ともいえるゲームの開発経験から、どんな荒波でも乗り越えてみせます、そう彼は語った。

 「君のビジネスモデルは、当たるか当たらないか、つまりイチかバチかになってしまっている。そこが危ない」

 そう言われた。

 「キャッシュエンジンを持つということも、意識したほうがいい」

 そう聞こえた気がした。

 「キャッシュエンジン」って……、一体なんだ!?

 その後もすごく親身に話を聞いてもらえた。「うちで修行してから起業しても遅くなんじゃない?」とさえ言ってもらえた。しかしその話は辞退した。自分だけでやっていける圧倒的な自信が彼にはあったからだ。

 ***

 大学を卒業する間際から彼は、本格的にフルタイムで仕事を始めた。プログラミングのできる友人たちと、小さなマンションの一室を借りて開発に励んだ。いままでつくっていたゲームとは違い、大きなコストを掛けている。たとえば、ゲーム中に流れる音楽やイラストはすべてプロに依頼し、クオリティの高いものを要求した。これまでは大学の友人たちにボランティアでつくってもらっていたのだが、こうしたほうがのちの人脈も築けると考えた。

 最初のゲームが完成した。デジタルネイティブの彼らはSNSを駆使してゲームの宣伝をした。最初は自分の学生時代の友人たちにゲームをプレイしてもらっていた。それが徐々に広がっていった。だが、ゲームのダウンロードランキングの上位に入るまでには、遠かった。

 スマホゲームの開発は、完成した時点で終わりではない。運用やメンテナンスのために人員が必要となる。そのため彼の会社はしばらく宣伝を続け、このゲームを長く売れるものにする戦略をとった。だがそれは簡単な道ではなかった。

 会社は何をするにもお金が必要になってくる。社員も昔なじみの友人とはいえ、給料を支払わなくてはならない。そのためには売上が立たなくては話にならないのだが、発表したばかりのゲームにすぐ収入がついてくるわけではない。そのため彼はまた別の事業を企画しなければならなかった。だが、一つゲームをつくったばかりのため、開発能力が不足していた。ありていにいえば人もお金も足りなくなってきていた。

 しばらくの間、彼の会社は収入のない状態で、最初に開発したゲームの運用を続けつつ、新たな事業の開発をしなければならなかった。しかしそれは無謀な計画だった。エンジニア、つまり彼の友人も寝る間を惜しんで仕事をする日々……。それも、収入が入ってくるまでの我慢だと言い聞かせていた。

 だが、期待に反して入ってくる収入はいつまでたっても微々たるものだった。最初から課金前提の有料ゲームをつくってもファンはつかない。だから無料のゲームでまずダウンロード数を上げて、広告収入で稼ぐモデルにすればうまくいく……。そう考えていた。それは安易な発想だった。

 収入はない。だから仕事を増やさなければならない。だが人手は足りない。外部から資金調達してくる手もあるが、そんなことができる会社は極々稀である。したがって新しい事業やプロジェクトの開発を始めるのも難しい。

 そうこうしているうちに、彼の会社は仕事がなくなってきていた。社員である友人たちも手持ち無沙汰になりつつあった。その様子を見て、彼はいっそう奮起した。

「こいつらは意識が低い。やっぱり、起業家じゃない人間はやる気がない。この会社が大きくなったら、絶対こんな奴らは雇わない—」。

 在学中は、大抵のことは仲間と一緒にやることができた。企画も、イラストや音楽の発注も、開発も、すべて自分たちでできた。それが自信になっていた。しかしそれは学生の遊びに過ぎなかった。学生という身分がなくなったいま、お金の問題もシビアに発生してくるようになった。かつての連帯感は、仲間への不信感へと変貌していた。

 「世の中そんなに甘いもんじゃないよ」

 あの時、起業家から聞いた言葉を思い出した。そう、確かに世の中は甘くはない。やる気のない人間はやる気のある人間の足を引っ張るし、力のない人間は能力のある人間に支えられている。普通の会社は、いや社会は、そうやって不必要にバランスをとっている。だが、自分は違う。俺は一人でもできる! もっと俺が頑張らなければならないんだ……。

 ***

 それから半年経たずに、彼は会社を畳んだ。そういうものだったのだ—。

 これが途中で夢に破れるベンチャー企業のよくある一例である。

成功するベンチャー企業は何をやっていたか

 一方、経営を上手く軌道に乗せられたベンチャー企業は、まったく違う起業のやり方をしているケースが多い。次に二つ、ある企業の例を紹介しよう。どの企業のことか? また何が先のベンチャー企業と違うのか、あなたはわかるだろうか?(引用文中の(略)は筆者による。以下同)

 当時私は、プロのミュージシャンになりたいと考えていたのですが、歌が下手で(苦笑)。(略)それで、目標を切り替えました。同じ夢を持っている才能ある友人をデビューさせるために、レコード会社をつくると宣言したのです。ならばビジネスの中心地・東京に行って、経営者を目指さなければ。私が起業家を目指すようになった原点です。(略)

 そんなこんなで、音楽の道はあきらめ、まずは東京の大学へ行こうと、高校3年の夏から猛勉強を始めました。それまでまったく勉強してなかったので、偏差値40台からの大学受験でした。結果、私は青山学院大学経営学部に合格。(略)

 東京に行けることは決まったものの、最初の(略)1、2年は雀荘のバイトにはまり、怠惰な生活を続けました。結果、留年。それでも先走って東京の二子玉川に居を移した私は、バーテンダーのバイトを始めます。

 そんなある日、バーの先輩スタッフから、「(略)お前の夢はなんだ?」と質問されてハッとしました。そうだった。自分は経営者になるために東京に来たんじゃないか、と。(略)その先輩に「私は会社を創りたいのです」そう宣言した私は、まずは「会社」というもので働いてみようと、すぐにアルバイト情報誌を購入して新たなバイト先を探し始めました。(略)

 そして私は、(略)元リクルート社員たちが中心になって立ち上げた会社で営業の仕事を始めるのです。大手通信会社が発行するフリーペーパーに始まり、採用情報誌、スクール情報誌、タウン誌、看護士向け求人情報誌などなど、本当にさまざまな業種、業態のメディアの広告営業を経験させてもらった。夏の暑い日でも、飛込み営業を1日100件するなど、自分にさぼることを許さず、一所懸命仕事をしました。(略)

 大学4年になり、(略)就職活動を開始。大手企業に行くつもりはまったくなく、ベンチャー企業に絞って会社を探しました。その活動の中で出合った(略)会社(略)への就職を決断したのです。(略)入社した私は、希望通り採用コンサルティング部門に配属されます。始発で会社に来て、始業時間が始まる頃には営業に出かけ、夜は終電ぎりぎりまで仕事。土日などの休日も当然出社。ゴールデンウィーク、夏休みもとらず、1日も休むことなく私は働き続けました。(略)結果、1年目にして自分ひとりで稼いだ粗利益額は5,000万円です。(略)

 そして入社1年目の12月、(略)私は起業することを決意します。(略)ちなみに、会社をつくることは決めたものの、事業内容はぎりぎりまで決まりませんでした。それでもインターネットの将来的な可能性の大きさ、そして、インターネット業界に営業がいなかったということもあり、インターネット業界の営業代行という方向性で、事業を運営していくことに決めました。(略)

 スタート時は、メンバーが私を含めて3人だけ。全員、それこそ朝から晩まで、ウェブマネーという電子マネーの取扱サイト開拓、Webサイトの制作請負など、様々なインターネット関連商品・サービスの営業代行に明け暮れました。

 (略)インターネットのマルチベンダー(自社の技術だけではなく、様々な企業の製品を組み合わせてシステムを構築すること:筆者注)のままでは、将来どうなるか危うい。そう考えていた私は、この頃から自社開発の強い商品・サービスを確立しなくては、と思っていました。そんな中生まれたのが、クリック保証型のバナー広告システム(略)です。システム開発を手がけたのは、オン・ザ・エッヂという会社でした。(略)

 そうして自社独自のサービスができ上がり、徐々に社員数も増え、売上高も増加。初年度初の決算売上高2,000万円は、翌年1999年には一気に4億5,000万円となりました。2,000万円の赤字ではありましたが、当社設立から丸2年後に東証マザーズに上場を果たしたのです。その記念すべき日は2000年3月24日、当時の私の年齢は26歳でした。

 答えがわかった方も、答えが気になる方もいると思うが、一旦答えは置いておいて、もう一つ別の会社の創業期の物語も見てみよう。こちらはその起業家の著書からの引用である。

 事業計画書も、ねらい通りにはいかなかった。(略)だからといって、事業計画が大失敗だったかというと、決してそうではない。計画書の中に入っていなかった仕事が、山のように転がり込んできたからだ。初年度だけで1500万円から2000万円ほどのキャッシュフローが生まれ、売上高は約3600万円に達した。(略)つまり初年度の売り上げは、事業計画書の中で予想していた「3260万円」をはるかに超えてしまったのである

 何がこの企業の創業初年度の売り上げ3600万円越えを可能にしたのか? この経営者は、次のように語っている。

 実は秘密なんてものは、何もない。とにかく熱心に、きちんと営業を続けただけの結果だ

 では、この経営者は何の「営業」を「きちんと」続けた結果、創業初年度の売り上げ3600万円越えを達成したのか? なんのことはない。ウェブページの制作業務の営業を続けたのだ。同著に公表されている事業計画書の「すでに収入が確定しているもの」という項目には、次のような箇条書きがある。

(1) A博物館WWW制作:予算1000万円(予定)
(2) C美術館WWW制作:予算1200万円(年間/予定)
(3) 株式会社D社WWW制作:予算200万円(予定)
(4) 外資系F社WWW制作:予算200万円(予定)
(5) I社WWW制作:予算(初期180万円、月額60万円)

 WWWはワールドワイドウェブ、すなわちインターネットのことだ。少し古い表現になっているが、これはホームページの制作のことを意味している。この経営者は同著の中で引き続き次のように述べている。

 とにかく日銭を稼ぐことを第一目標にして、ウェブ制作やホスティング(サーバーを貸し出す事業:筆者注)などの事業に精を出したのである。

 当時は新しいビジネスモデルがもてはやされ、他社が思いつきもしなかったような新たなサービスをいち早くスタートさせるのがカッコいいと思われた時代だったから、ウェブ制作やホスティングなどの業務はいかにも地味で、カッコ悪かった。でも流行の最新ビジネスモデルが一銭のカネも生み出さず、コストをどんどん吸収してベンチャー企業の経営を悪化させていくのを横目で見ながら、ウェブ制作やホスティングはきちんと毎日毎日、安定した収入を上げ続けてくれたのである。

 おかげで(略)経営状態は、きわめて安定していた。創業以来、単月で一度は赤字を出したものの、それ以外はこの8年間、単月度黒字を続けている

 一社目と二社目、何という会社の創業期の話だったかおわかりだろうか。一社目は、私が新卒で入った会社でもある藤田晋さん率いるサイバーエージェント。二社目は、ホリエモンこと堀江貴文さんが起業し、現在はLINEに吸収合併された会社であるライブドアの前身のオン・ザ・エッヂである(前者は、「DREAMGATE」のインタビュー「第18回 株式会社サイバーエージェント 藤田晋」より、後者は堀江貴文著『堀江貴文のカンタン!儲かる会社のつくり方』(光文社)より引用)。

 この二社を取り上げたのは何もお二人が有名だからではない。本書にとって重要な共通点がこの二社にはあるからだ。

 この二社の創業時の共通点とは何か? それは、最初から大きな売上を上げていることだ。たとえばサイバーエージェントの売上は、一年目に2000万円、二年目には4億5200万円に達している。また、オン・ザ・エッヂは一年目に3500万円、二年目には1億400万円を記録している。その後、オン・ザ・エッヂは、8年間連続で単月度黒字を続けていた。

 この二社には、初年度から大きな売り上げを上げていること以外にも重要な共通点がある。それは初期の時代に、一般の人向けの派手で目立つ事業ではなく、法人向けの地味だが堅実な事業を行っていたことだ。結果、「何の事業を行っている企業なのかわからない」とさえいわれていた。

 サイバーエージェントであれば、アメーバブログやアメーバピグを運営するアメーバ事業をヒットさせるまで。オン・ザ・エッヂであれば、ポータルサイトのライブドアやライブドアブログをヒットさせるまで、具体的な事業内容は、人々に大きくは知られていなかった。つまり、世間からすると目立たず地味な事業で創業し、堅実に稼ぐ形で操業を続けていたのだ。

 こういった、安定的にキャッシュ(現金・キャッシュフロー)を運んできてくれる事業で起業を行うことを、私は「キャッシュエンジン起業」とよんでいる。また、そこから生まれるキャッシュを原資にして、他の新規事業に繰り出していく経営方法を「キャッシュエンジン経営」と呼んでいる。

 本論考において私は、このキャッシュエンジン起業とキャッシュエンジン経営の方法を紹介していきたいと考えている。

キャッシュエンジン経営とは何か?

 では、キャッシュエンジン経営とは何か? 実は、私がこれを思いつく何年も前に、前述の堀江貴文さんも同じような答えにたどり着いていたようだ。そこで、堀江さんの著書『堀江貴文のカンタン!儲かる会社の作り方』の中から、該当箇所を紹介したいと思う。

 重要なのは、とにかく日銭を稼ぐモデルを確立することである。インターネットのベンチャー企業の多くが、うまく事業を離陸させることができずに失敗してしまったのは、この部分をおろそかにしたことが大きい。(略)

 そもそも最先端のビジネスモデルに賭けるというのは、かなり確率の低い賭けといえるだろう。もちろん資金が潤沢にあって、そして運が良ければ、労せずして儲けられるようになるかもしれない。その事業に賭けている起業家本人は、チャンスは十分だと考えているから実行に移しているのだろう。でもマクロ的な視点で見れば、そんな確率はかなり低い。ハイリスクなバクチのようなものだ。

 オン・ザ・エッヂは、そんな不毛な戦略は採らなかった

 つまり、キャッシュエンジン起業とは、キャッシュ(日銭)を確実に稼ぎ、事業を延々と継続するための原資となるエンジン(事業継続の原動力)をあらかじめ持って起業する経営手法のことである。

 キャッシュエンジンとなる事業は、多くの場合地味だ。目立たないがゆえに見逃されている。だが、堅実で重要な起業法の一つである。

 堀江さんは起業後、社名をライブドアに変え、球団やフジテレビの買収騒動、国会議員立候補などを経て、その後のライブドアショックを引き起こすなど大きな注目を浴びた。しかもそれ以前から「堀江の会社は虚業」といわれ、「何をやっている会社なのかわからなくて怪しい」などといわれていた。

 ライブドア事件以前から一般の人がそういった感想を持つのは無理はなかった。なぜなら、ライブドアが巨額の資金を投じて自社のブランディングを行うことができたのは、その裏であまりに地味な事業を淡々と続けていたからである。

 ライブドアは、企業のホームページ制作請負とホスティングから得た資金を貯めて、フジテレビの買収にまで乗り出した、キャッシュエンジン型企業の典型例だったのである。

スケール型の企業もキャッシュエンジン型事業を持ったほうがいい

 一方私は、地道な「キャッシュエンジン型事業」に比べて、最初に開発のための多額の資金が必要になるが、そこを乗り越え一発当たれば、一夜にして大金持ちになることも夢ではない、収穫逓増型の事業モデルのことを「スケール型事業」と読んでいる。スケール型事業で大きくなった企業の典型例としては、「パズドラ」を当てたガンホー・オンライン・エンターテイメント社や、SNSのmixiや「モンスト」を当てたミクシィ社などを挙げることができる。

 さて、キャッシュエンジン型であっても、スケール型での起業であっても、成功した会社はどのような道を歩むか。上場して株式を公開(IPO)するか、企業に事業を売り渡す(バイアウト)か。

 これらをあわせて「イグジット」という。イグジットとは「出口」を意味する言葉で、ベンチャー起業家やベンチャー投資家(ベンチャーキャピタル)が、投資した資金を回収する手段のことである。

 バイアウトが目的ならば、ほとんどの場合、労働集約的にコツコツ資金を貯める必要はない。ヒットするサービスが一つあれば十分だ。しかし株式を公開する場合はそうはいかないことも多い。一般の株主にお金を出してもらう以上、その会社は継続して利益を出す責任がある。よくいわれるゴーイング・コンサーン、つまり永続的に会社を大きくする必要があるからだ。

 もちろんスケール型の事業を大きく当てて上場した会社もかなり多くある。しかし、そんなスケール型の事業を営んでいる会社でも、安定的な成長を続けるためには、キャッシュエンジン型事業”も”自社の事業のポートフォリオの中に組み込むことが、あなたの今後の会社経営を助けてくれる大きな力になる。

 それはなぜか? それは、スケール型の事業の多くが、「プロダクトライフサイクルの罠」から逃れられないからだ。プロダクトライフサイクルとは、どんな製品やサービスにも「製品導入期」→「成長期」→「成熟期」→「衰退期」という名の売上の波が存在していることを示す言葉である。転じて、どんなに好調な商品であっても、いずれ終りがくることを示す概念である。

 すなわち、スケール型の事業で起業を行った会社は、最初のスケール型の事業が衰退する”前に”、次のスケール型の事業を開発し、当てておかなければ、倒産の憂き目にあうことさえあるということだ。

 そうならないように、スケール型の事業を行いつつ、並行して手堅く日銭を稼ぎ続けるキャッシュエンジン型の事業を経営のポートフォリオの中に“組み込んで”おけば、大きな成長も狙いつつ、同時に会社を潰さない安定的な企業経営が可能になる。これこそが、サイバーエージェントやライブドアが行っていた、起業・独立して会社を3年で潰さないための、本書でそのすべてを公開する秘訣である。

キャッシュエンジンがあると数億円失っても立ち続けられる

 経営者が最も落ち込むことになるのは、何をおいても事業がうまくいかない時だ。事業を始めるとき、自分が想定している絵を描く。多少外れるなら構わない。最低でもこのぐらいはいくだろうというラインがある。しかしその最低ラインにすら届かなかった時は……、立っているのも苦しい状態になる。

 私が経営しているトライフォートは、創業から3年間で、10億円規模の資金をスケール型事業への挑戦によって失ってしまった。それでも会社が倒れなかったのは、地道なキャッシュエンジン経営を続けていたからだ。

 トライフォートはキャッシュエンジン型事業の典型である受託開発事業からスタートしている。受託開発とはたとえば、顧客が発表するスマートフォンアプリの開発を請け負うような事業である。その際、開発・納品さえ済めば、顧客から製品開発費が振り込まれるため、自社の利益を、製品の当たりハズレから切り離して経営できる事業である。いわば開発・納品さえすれば確実に対価を得られる仕事なのである。

 トライフォートは、1期目、2期目はそうやって受託開発という名のキャッシュエンジン型事業によって資金を貯め、そこからさらにベンチャーキャピタルから資金調達を行うことで、3期目に大きな投資をする決意をした。

 私は常に、レバーの切り替えを意識している。たとえば、キャッシュエンジン型事業であるスマートフォンアプリの受託開発を続けたことで、事業と組織の余力を確保できた時に、スケール型事業である自社サービスのほうに思い切りレバーを振り切った。

 そして「これは危ない」と思ったら今度は、キャッシュエンジン型寄りの事業である他社との「協業開発」にレバーを切り替えた。協業開発とは、二社あるいは複数社の間で資金を持ち合い、同時に利益をわけあうことでリスクを分散させる事業展開の方法である。また両者の強みを持ち合うことでシナジー(相乗効果)を生むことも期待できる事業形態である。

 トライフォートはこの協業開発を、「LINE社と資本業務提携をした企業」として大きく展開した。資金は両者で持ち合い、トライフォートは技術力を提供。LINE社は、スマートフォンアプリ「LINE」の顧客基盤や販路を提供してくれた。これらの「協業開発」によって私は、スケール型事業の展開で失った資金を取り戻し、元よりも大きなキャッシュフローの流れを生み出すことができた。

 普通であれば、創業間もない会社が数億のキャッシュを失えば、倒産の危機は避けられないだろう。通常、会社を立ち上げたての経営者にはそんな悠長なことを言っている余裕は与えられていない。にもかかわらずなお、トライフォートは立っていられたのである。

J!NS代表取締役CEO 田中仁氏推薦!!
「起業を考えたらすぐに読むべき本」

 この恩恵は、キャッシュエンジン経営を行っている経営者にだけ与えられるものである。

 堅実な事業を裏で続け、手堅くキャッシュフローを保ち続ければ、そんなことすら可能になるのだ。それが、私が本書でこの方法をすすめる所以である。

J!NS代表取締役CEO 田中仁氏推薦!! 「起業を考えたらすぐに読むべき本」

この連載について

起業3年目までの教科書 はじめてのキャッシュエンジン経営

大竹慎太郎

サイバーエージェント、ZOZOTOWN、ユニクロ、ライブドア、電通が実は、ある「共通の起業法」を用いていた!? サイバーエージェントで全社MVPをとり、起業した会社を半年で70人に、3年で180人規模にまで育てた、『起業3年目の教科書...もっと読む

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soepeey 日銭を稼ぎながらスケールするビビネスに投資するのがキャッシュエンジン型経営。ホリエモンがベンチャーの日銭稼ぎを重んじていたのは意外。 https://t.co/Txy5Whxqmu 17日前 replyretweetfavorite

hevyichigo キャッシュエンジンを持つこととスケール型ビジネスを創出すること、またそのバランスについて、分かりやすく書かれた良記事。 「 起業して失敗する人」に共通する残念な考え方 https://t.co/ssuA9ZC2lK 26日前 replyretweetfavorite

TesonSeki めちゃくちゃ染みる… 27日前 replyretweetfavorite