妄想の中でアニメキャラに振られて傷ついた
海猫沢めろん(以下、海猫沢) 俺の子供はいま7歳なんですが、奥さんと籍を入れたのは2年前です。一緒に暮らしていても籍を入れるのがずっと嫌で。入れてから確信したんですけど、結婚って本当に恐ろしい制度ですよ。
山内マリコ(以下、山内) ほう。
海猫沢 何が嫌かって、人間の自由を法律で縛るものなんですよ? 結婚した瞬間に、他の女の人とセックスすると法で裁かれるなんて……。結婚制度って、人間の心を法で縛ってるんですよ! 法は行為を縛るものだけど、心は縛れないはずだろう!? と。
そんな法を無視すればいいのに、でも気づくと縛られてるんですよ。もともと社会規範から自由になりたくて作家になったのに、心を縛られてどうするんだ俺、って。それで自己嫌悪に陥る。
山内 なるほどー。わたしは自分が一夫一婦制に向いていると思うので、結婚で縛られる部分は別に束縛とは感じないんですけど、恋愛するのが好きで、いろんな人とセックスしたい人にとっては、結婚はキツい縛りですよね。
独身のころは罰せられなかった欲望が罪になるわけだから。向いてない人はとことん向いてない。
海猫沢 不倫にみんなが騒ぐのって、そういう抑圧された無意識の爆発ですよ。みんなバンバン不倫しまくったらいいんですよ。俺ね、マンガとかアニメキャラの可愛い女の子を好きになって、この子と付き合ったらどうなるだろう? とか妄想することが、ごく普通にあるんですよ。
山内 まだあるんですね(笑)
海猫沢 でも、いま、結婚もして子供もいる俺は、妄想の中でその彼女といい感じになっても、「え、あなた子供がいるの?」ってその彼女……澤村・スペンサー・英梨々に言われて、めちゃくちゃ傷つくんです。……っていうシミュレーションっていうか、妄想をやり続けた結果、結婚という制度にも妻にも子供にも世界にもむかついてきて。
山内 え、妻にも?
海猫沢 うん、俺はいますぐ離婚をして、子供を捨てて、ひとり暮らしするべきだって、つい一年前まで思っていました。
山内 まだクズだったんですね(笑)。
海猫沢 うん。ほとんどの男は、結婚にプラスのイメージをもってないと思いますよ。
山内 それも、お父さんのロールモデルの不在と根っこは同じ気がしますね。
3.6倍の男が結婚を後悔している
海猫沢 この間、『誰もが嘘をついている』(S・S=ダヴィドウィッツ著/光文社)っていう、グーグルのデータ・サイエンティストが書いた本を読んだらすごく面白くて。例えば現実社会で「あなたのセックスの趣向」を尋ねるアンケートがあっても、誰もまともに答えないじゃないですか。正直に答えるメリットがないもん。でも、グーグルの検索で自分好みのポルノを探すとき、当たり前だけど、人は本当のことしか書かない。
で、グーグルの検索だと、子供をもった男性が後悔しているかどうかのデータっていうのも出てきちゃうんですね。その結果、子供がいる成人は、いない成人よりも、3.6倍も多くその決断を悔いているそうなんです。
山内 子供をもったことを後悔してるって、いちばん口にしちゃダメなやつ……。そっか、現代はグーグルだけが人間の本音を知ってるのか(笑)。
海猫沢 ほとんどの男にとって、なんで子供生んだの? の答えって、グーグルで検索するまでもなく、本音は「中出しをしたからです」みたいなことだと思うんですよ。
山内 はいはい(笑)。
海猫沢 じゃあ、それでなんで結婚生活を続けているかというとか、別れる理由もないし、責任とらなきゃいけないし、世間から悪い男と思われるのが嫌だとか、そういうことに過ぎない。
山内 なるほどね。男性って、世間体とかの監視にある程度縛られてないと、簡単に堕落しちゃう生き物なのかも。女性が思ってる以上に。
海猫沢 強固な意志で何かを選んでいる男なんて、ほぼいないですよ。だいたいが逃避行動ですね。
山内 やっぱそうなんだ! 『選んだ孤独』を書きながら、男性とはなにか? を追求するうちに、実はみんな本質的にクズなのでは? っていうところに行き着いたんですけど(笑)、あながち外れてはいなかったのかな。
海猫沢 さっきも言いましたけど、俺は奥さんと子供と熊本に住みだした一年目くらいは本当に嫌で、ある日、夜中3時に「俺はこんな田舎に来たかったわけじゃねえんだ! いますぐ東京でひとりで住む!」ってブチ切れたんですね。
山内 そこまで言っちゃって、どう関係を修復したんですか?
海猫沢 もうね、話し合うしかないんですよ。冷静になって、じゃあ東京にひとりで帰って何やるんだって考えたら、毎日男友達と遊んで、アニメ見てエロゲーしてオナニーするだけだなって。俺は、すごく非生産的なことを言ってしまったなと。いや、アニメとかエロゲも大事なんですけど……子育ては命がかかってますからね。
奥さんからは、「あと10年も経てば子供は外に出ていくし、一緒にいられる時間はそんなにないのに、ただただ残念です」って言うメールが来て。あ、そうか、家族ってやめようと思えばこの瞬間にでもやめられるんだ……でも続けるのは今しかできないんだな、となんかその瞬間に正気に戻って。
山内 奥さん、子育ての真っ最中にそれだけ長いスパンで見られてるってすごい冷静ですね。そういえば、銀色夏生さんが「つれづれノート」という日記シリーズで、育児のことを愚痴もこめてあけすけに書いていて。
その中によく「(自分の子供が巣立つまで)あと○年の辛抱」とか書いてあって、母親でもそういうこと言っていいんだって新鮮でした。言っていいですよね、でないと子供も気づかないもん。
愛はなくてもいいから親切にすればいいんじゃない?
cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。
cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。