静寂、そして地獄

「受注数世界一の、殺しの会社を創りたい」
世界一売りづらい「殺し」を売るための会社作りに奮闘する女子大生、桐生七海の師匠であり、「最強のマーケティング技巧」を持つ西城が銃弾に倒れた。師匠を失った七海を取り巻くようにさらなる事件が起こり、そして物語は衝撃のラストへ――。今話題の書店経営者が初めて書く新しいマーケティング&エンタメ小説、第46回。

おかしい。何かがおかしい。

連日報道される、サイレンス・ヘル関連のニュースを観て、秋山は思った。  
まるで統制されているかのように、マスメディアは横一線で異口同音の報道を繰り返した。

これでは、大本営発表を流し続けた戦中のメディアと一緒ではないかと思った。

秋山は、野次馬に混じり、ひなた写真館を遠巻きに眺めていた。  
殺人鬼の息子は殺人鬼。  
その論調で、マスコミ各社は、ひなた写真館に詰めかけていた。  
何かを隠している。おそらく、大きな力が働いている。  

日向涼に関して、世の中は真実を知らないのではないか。そして、その真実こそ、大きな力が隠したい何かだ。  
それは、あるいは、サイレンス・ヘルの意図、なのかもしれない。

何を、サイレンス・ヘルは目論んでいるのか。  
本当に、彼は単なる殺人鬼なのか?  
単純な話ではないように秋山には思えた。

サイレンス・ヘル、日向涼は行方をくらましていたが、秋山はここに戻ってくるのではないかと思った。

秋山はじっと、報道陣が引くのを待った。この張り込みは響妃では目立ちすぎる。秋山しかできないことだった。

いつしか、日が暮れていた。最後の報道陣が引いたとき、秋山はひなた写真館のドアに、手をかけた。   開いていることは予想がついた。日向涼が指名手配されてから、中にあったものはほとんど警察に押収されたと聞いていたからだ。

暗闇の廊下を進んだ。気味が悪かったが、日向涼が戻るのを待とうと思った。そうしなければならないような気がした。  
今世の中で形成されている空気が、何かおかしいのだ。単なる殺人鬼に対する空気ではない。  
答えを知るのは、おそらく、サイレンス・ヘル、日向涼本人しかいない。彼に聞きたいことがあった。   ある部屋のドアが少し、開いていた。そこから、光が漏れていた。あまりに明るかったので、光が灯されているのかと思った。

けれども、違っていた。この部屋自体が明るく、廊下との光の落差が大きかったからそう見えただけだろう。

当然のように、人の気配がまるでしなかった。  

何も考えずに、ドアを開けた。開けた瞬間、秋山は悲鳴を上げそうになった。それをすんでのところで、なんとか堪えた。

何もなくなっていた明室に、サイレンス・ヘル、日向涼がいたのだ。しかも、こちらに銃を向けていた。

このとき、生まれて初めて秋山は、生を諦めた。諦めた瞬間に、なにか、解放されたような気分になった。その途端、漏らしそうにも泣きそうにもなった。

いつ、マスコミの囲みを突破して入ったのだろうと疑問に思った。しかし、その疑問はすぐに解消された。違う。囲みを突破したのではない。最初からここにいたのだ。父親が幼女を殺害し、自殺した現場だというのに、彼はこの写真館に戻った。それと同じく、今回も戻っていたのだ。なぜなら、ここは彼の家だからだ。

静かに、と日向涼は、秋山に銃を向けたまま言った。そして、トリガーにかけた人差し指に力を込めて、秋山の額に銃口を押し当てこう言ったのだ。

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殺し屋のマーケティング

三浦崇典

「受注数世界一の、殺しの会社を創りたいんです」 女子大生、桐生七海は本気だった。「営業」ができない、「広告」も打てない、「PR」なんてもってのほか、世界一売りづらい「殺し」をどう売るか――、そんな無理難題を「最強...もっと読む

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