仕組まれたブーム

「受注数世界一の、殺しの会社を創りたい」
世界一売りづらい「殺し」を売るための会社作りに奮闘する女子大生、桐生七海の師匠であり、「最強のマーケティング技巧」を持つ西城が銃弾に倒れた。師匠を失った七海を取り巻くようにさらなる事件が起こり、そして物語は衝撃のラストへ――。今話題の書店経営者が初めて書く新しいマーケティング&エンタメ小説、第44回。

「もしかして、これって仕組まれたことなのかもしれない」

相川響妃は、『2629』の本を閉じた。その池袋のハウススタジオは、雑誌や広告の撮影によく使われていた。今度撮影に使いたいので下見をしたいと無理にスタジオスタッフに言って開けてもらったのは、響妃がどうしても「2629」のことについて、現場で考えたいと言ったからだ。

前に、秋山は「2629」の夜会がある日に、響妃をこのスタジオに車で送り届けたことがある。そのときは、たしか、藤野楓に誘われたと言っていた。

「仕組まれたって、夜会が?」

その夜会については、男性の秋山は詳しくは知らない。なぜなら、その夜会には女性しか参加できず、そこで何があったかは秘密にされるからだ。ただ、『2629』の本の内容からすると、女性同士がセクシーな写真を撮り合う会だと推測された。

響妃は首を横に振り、脱ぎ捨てられたシルクのセクシーな衣装を手に取る。昨夜もその夜会があったようだった。ストロボや定常光も、様々な背景に向けて、そのままに放置されていた。昨夜の気配が色濃く残っていた。

「変だと思わない? 2629の夜会に参加していたことは、私は隠していなかった。それなのに、どうして私にこの話を持ってこなかったんだろう」

「それって自分が火つけ役になれなかったことが悔しいってこと?」

そうじゃなくて、とため息ながらに響妃は言う。

「誰かが、火をつける場所を入念に選んだんじゃないかって思って」

「まさか、このブームは、誰かが意図的に仕組んだことだって言いたいの? でも、そんなことってできるはずが……」

「できたとしたら?」

その中の空気までも変えてしまう恐ろしく有能なマーケターがいるってことだろう。

「でも、そんなことって」

響妃は窓際に向かってゆっくりと歩き始めた。

「明良君、ちょっと考えてみて」

そして、秋山のほうを振り返って言った。

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殺し屋のマーケティング

三浦崇典

「受注数世界一の、殺しの会社を創りたいんです」 女子大生、桐生七海は本気だった。「営業」ができない、「広告」も打てない、「PR」なんてもってのほか、世界一売りづらい「殺し」をどう売るか――、そんな無理難題を「最強...もっと読む

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