空気を創るマーケター

「受注数世界一の、殺しの会社を創りたい」
世界一売りづらい「殺し」を売るための会社作りに奮闘する女子大生、桐生七海の師匠であり、「最強のマーケティング技巧」を持つ西城が銃弾に倒れた。師匠を失った七海を取り巻くようにさらなる事件が起こり、そして物語は衝撃のラストへ――。今話題の書店経営者が初めて書く新しいマーケティング&エンタメ小説、第43回。


桐生七海は、腕時計を見て、約束の時間よりも一〇分早く着いたことを確認する。思えば、今日の待ち合わせ相手は、この時計を七海に贈った人であり、人に時計を贈るくせに、時間を守れない人だった。

あと二〇分は来ないとみていい。  
最初からそうなるだろうと思い、待ち合わせ場所は池袋東口の大型書店にした。ちょうどいいので、久しぶりに雑誌を見ようと思った。事件とか、煩わしい想いをするのが嫌だったので、女性誌コーナーへと向かった。

そこで、気になる文字列が七海の目に留まった。  
女性誌の多くが同じような特集をしているのだ。  

これからはカワイイではなく、セクシーを目指す!《2629宣言》 26歳からの本気のSEXY
2629の夜会で、新しい自分を見つける 未来の自分に贈るセクシーなワ・タ・シ〜2629特集〜

女性誌において、特集自体がかぶることは珍しいことではない。テレビのドラマや映画とのタイアップで、主演女優が同じ月の表紙を何誌も飾るのは一般的な話だ。  
そして、雑誌のコーナーにもかかわらず、そこには黄色い表紙の新書が山積みに置かれていた。店員の手書きPOPがつけられていた。

50万部突破!
2629ブームの火付け役!
女性なら誰もが読むべき一冊です!

そのタイトルは『2629』。最近、電車の広告でも、テレビでも話題になっているベストセ ラーだった。

七海が気になったのは、数値だった。

「2629……」

なにか、この数字が引っかかった。どこかで見た数値のような気がした。

七海は山積みに置かれた『2629』の一冊を手に取る。内容に興味があるわけではない。

本文を高速でめくり続け、「あとがき」にたどり着く。  
その最後の部分に注目する。いわゆる謝辞の部分だ。  
ある一文を見つけたとき、七海の時間は巻き戻った。

この本を出すきっかけを下さった、編集協力の西城潤さんに感謝いたします。

「先生……」

そうつぶやくと、涙が溢れ出た。

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殺し屋のマーケティング

三浦崇典

「受注数世界一の、殺しの会社を創りたいんです」 女子大生、桐生七海は本気だった。「営業」ができない、「広告」も打てない、「PR」なんてもってのほか、世界一売りづらい「殺し」をどう売るか――、そんな無理難題を「最強...もっと読む

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