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シュトゥットガルト市役所広場の屋外市場にて (以下全て筆者撮影)
ヨーロッパ人が愛してやまない白アスパラの季節だ。ドイツでも、5月に入ると白アスパラフィーバーが始まる。
白アスパラというのは、日本でいえばタケノコのようなものだ。まず、旬の季節が短い。比較的高価である。産地によりブランドがある。そして、新鮮なら新鮮なほどよい。というわけで、時期になるとどこのスーパーでも買えるのだが、しかし、本当に美味しいものが欲しければ、朝市などで、その日の朝に掘りたてのホヤホヤといった逸品を手に入れなければならない。美味しさは比較にならない。名産地はフランスだけでなく、ドイツの各地にある。
季節労働者を動員する集約的な収穫
白アスパラがなぜ白いのかというと、日に当たらないからだ。日に当たると、グリーンアスパラになる。だから白アスパラは、土の中から顔を出す前に掘り出さなければいけない。上から見ると、土にちょっとした亀裂が入り、見る人が見れば、「ここだ!」とわかるそうだ。それを、特殊な器具(といっても、ごく単純なもの)を使って、切って抜き出すようにする。白アスパラの収穫にだけは、"stechen"という動詞が使われる。これは、普通は「刺す」という意味だ。
この収穫はかなり骨が折れるので、これまでに様々な機械化の試みがなされたが、すべて失敗に終わり、未だに手による収穫が続いている。現在の白アスパラ畑は、労力を軽減するため、あまり屈まないで作業できるよう畝を高く作ってある。それでも、重労働であることに変わりはないし、短期間に集約的な労働力を必要とするので、この時期だけ、東欧など賃金の安い国から季節労働者が入る。
ドイツ政府と当該国政府の間では、特定の事柄、例えば、この白アスパラの収穫とか、イチゴの収穫時に、期間を決めて出稼ぎ労働者に労働ビザを出すことになっている。ただ、今年は例年になく寒かったため、出稼ぎ労働者は来たものの、白アスパラがなかなか収穫段階に入らず、農家はとても困ったという。いずれにしても、白アスパラが高い理由の一つが、この、労働集約的な収穫方法に由来する。
値段が高いと書いたが、ドイツの白アスパラは、どんなに高いものを買っても、もちろん日本で買うよりはずっと安い。日本では、フランスからの直輸入品もあれば北海道産もあり、どちらも高い。でも、前述のように、白アスパラは鮮度が命なので、フランス産より国産の方がいいかもしれない。
そもそも日本の野菜や果物は高すぎる。1個500円のリンゴがある。マスクメロンは5,000円だし、巨峰は1房1,000円だ。私はこの話をドイツ人にしたことがない。しても本気にしないことが明らかなので、わざわざ嘘つきだと思われることを話そうという気にならないからだ。ドイツなら、リンゴは500円出せば、2キロは買える。白アスパラも、1,500円も出せば、上物が1キロ買える。
付け合わせには厚めにスライスした上等のハムを
いずれにしても、5月になると、ドイツで白アスパラを楽しみにしている人は多い。私もその1人で、ここぞとばかりに、何度も買いに行く。皮をむいて、茹でる。今は、専用のよい鍋(寸胴鍋のような形)があり、白アスパラを立てて入れ、下の方に水(塩、レモン、バター入り)を入れ、半分は蒸気で茹でてしまう。大切なのは、茹ですぎてふにゃふにゃにしないこと。茹で汁は、あとでスープの出汁にする。私は、炊き込みご飯に使うことが多いが、えも言われぬ美味しさだ。
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