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「バブみを感じてオギャる」。1年くらい前に出てきた表現です。架空のキャラクターや声優さんなどに、母性を感じて甘えたくなるという意味で、極め付けにはアイドル育成ゲームの美少女キャラクターに対するこんな名言も生みました。
「これは俺を妊娠している」
……母性を感じさせる人物に甘えたい、と、性欲混じりに思うのは、きっとそんなに珍しいことじゃないんだと思います。「バブみを感じてオギャる」とか、「赤ちゃんプレイ」とかいう言葉の存在を考えても。
けれど、どんなに「バブみを感じてオギャる人たちはたくさんいるんだなあ」とツイッターを眺めながら思ってみても、自分で自分の気持ちを肯定できないことはありますよね。今日ご紹介するのは、「年上の女性に恋をしている。彼女が素敵だからこそ、彼女について性的なことを妄想してしまう自分が許せない」とおっしゃる方からのご投稿です。
牧村さんこんにちは。私は女で、今、年上の女性に恋をしている自分が気持ち悪いです。女性を母親のように慕うのと、恋心というか性的な欲求との混同は、時間が経てば治るものなのでしょうか。私は女性が好きです。けれど最近、それは母親から得られなかった母性を年上の女性に性愛の形で求めようとしているのかも知れないと思うようになりました。だとしたら壊れすぎてる気がして辛いです。
彼女と手を繋ぎたい。キスしたい。その先もしたい。ひとりだと最低な妄想ばかりしているのに、彼女と会って話すとただ心が和らいで手のひらが温かくなって尊いものを見ているような気持ちになるんです。唇を見つめて、暖かい瞳に見惚れて、嬉しくてふわふわした気持ちになるんです。そうして、立ち話を終えた後で罪悪感で吐き気がしてくるんです。本当に、めっちゃ良い人なんですよ。可愛がってもらっているのに、それに引き換え私がしていることはこんなにも汚い。苦しいです。セクシャリティが治らないんだとしたらもうどうしていいか分かりません。
お話くださってありがとうございます。こんなに苦しみながら考え抜くなんて、本当に、ひたむきな恋をしていらっしゃるのね。「彼女と会って話すとただ心が和らいで手のひらが温かくなって尊いものを見ているような気持ちになるんです」。その方、きっと素敵な方でいらっしゃるんでしょう。出会えて本当によかったですね。
あのね、ご自分の性欲への罪悪感に苦しんでいらっしゃる方に、こんなこといきなり申し上げるものじゃないのかもしれないけど……私が思う解決策はシンプルです。
めっちゃオナニーすることです。
……あ、今のでもう読むのやめちゃったかもしれない。いや、でも、本当に言ってるのよ私。これにはちゃんと理由があります。記事を消す前にどうかもう少しお付き合いいただけるでしょうか。
あのね、問題を解くためのゴールデンなキーワードがあるのよ。
「肯定」です。
言い換えれば、「ここにこのようにして生きていても良いという感じ」です。
断言しますが、性についての悩みは、掘り下げるとみんな「肯定」が鍵です。性や愛についての悩みを読者から広く募集してコラムを書いているアメリカの文筆家、ダン・サヴェージはこう言っています。みんなの悩みをもし一文でまとめるならば、「ママ、これやっていい?」である、と。
例を出しましょう。「モテないんです」。「好きな人に振られて辛いです」。これらはつまり、「自分の気持ちが肯定されないのでつらい」ですよね。それをもう一段掘り下げるとどうなるか。「自分自身で肯定できていない自分の気持ちを他者に肯定してもらうことでやっと自分でも自分のことを肯定したいのに肯定されないのでつらい」なんです。
ご投稿者の方は他者に肯定されることを求めながら、自分で自分を否定していらっしゃる。それは苦しいだろうと思います。その狭間で、「性的な欲求」と「母親から得られなかった母性への欲求」を混同しているのではって悩んでいらっしゃるけれど、それ、混同じゃないんだと思いますよ。だって、掘り下げると、そもそも同じだから。どっちも根っこは同じ、肯定されたいってことだから。「ここにこのようにして生きていても良いという感じが欲しい」ってことだから。
この「ここにこのようにして生きていても良いという感じ」を、わりと早い時期に獲得する人もいます。ただ泣きわめいてるだけでおっぱい飲ませてもらってオムツ換えてもらって、生きることをめっちゃ肯定されながら育つ人もいます。
でも、残念ながら、暴力や社会的不平等にこの肯定感を奪われてしまう人もいる。また、そもそも肯定感を与えられずに育つ人もいる。仕事や勉強ができなければお前の存在には価値がないと、条件付きの肯定をちらつかせて人を従わせることで自分を肯定しようとする人に支配されてしまう人もいる。何より、なまじ言葉を覚えてしまったがゆえに、「ここにこのようにして生きていても良いのか?」という悩みにとらわれてしまう人もいる。そんなこんなで、「ここにこのようにして生きていても良いのか?」という状態に陥ってしまうわけですが、この頃すでに、あなたは赤ちゃんではなくなっています。ただただ一方的に泣きわめいているだけであなたにおっぱいを飲ませてくれて、あなたのオムツを換えてくれて、あなたの全てを絶対肯定してくれる人は、あなたが赤ちゃんだった時に比べて、非常に見つかりにくくなっています。
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