名刺ゲーム

奥さんいるじゃないですか、ダメですよ。

仕事相手として神田と会い、気軽に相談し合う仲になっていた芸能マネージャーの山本。タクシーの中で神田に手を握られ、「ホテル、行こう」と言われた瞬間は、場を切り抜けることしか頭になかった。これからの仕事を俯瞰で考える余裕などなく、結果、仕事を干されるしかなかった……。心に刺さる台詞が満載の『名刺ゲーム』!


 初めて会いに行った時に神田さんに渡した、笑顔で受け取ってくれた名刺。玉虫色のスカーフをした男がその私の名刺を握っている神田さんに言いました。

—多いでしょ? 人気番組のプロデューサーともなると、タレントさんの売り込み。

 神田さんはすぐに返すことができるはずの名刺を持ったまま私の目を見ようとしない。

—番組が当たってない時にはマネージャーさんも売り込みに来ないんですよね。

—何が言いたいんですか?

—ずっと羨ましかったでしょ? マネージャーが沢山売り込みに来るプロデューサー。

—そんなことないです!

—そういう小さな嫉妬の積み重ねって、人を変えていくんですね。

 玉虫色のスカーフの男はわざと私の前に立って、神田さんに問いました。

—昔、あんまりモテなかった人が権力を手に入れてモテだすって危険ですよね。

—どういうことですか?

—歯止めが利かなくなる。自分の欲をコントロールできなくなる。あなたのように。

 売り込みに行った私に、神田さんは意外な答えをくれました。

—とりあえず一回ロケに行ってみようか?

 深夜番組での頑張りすぎアイドルキャラが「ミステリースパイ」に合っているかもと、すぐに決めてもらえました。片山さんが話をしてくれたのも大きかった。だけど、こんなにも早く決まるなんて思ってなかった。

—やったー!

 叫んでました、神田さんの前で。マイカさんに電話したら、泣いてくれました。私が取ってきた一本の仕事に、何度も何度も「ありがとうございます」って言って。会社の人間も驚いてました。誰が売り込みに行っても、うちのタレントが使われたことはなかったから。

—もしかして神田さんと寝たとか?

 チーフにそう言われて、苛立だちが顔に出ちゃいました。すぐに「冗談だよ」と返されましたが、本気だったんでしょう。

 事務所の人たちに再びマイカさんをプッシュしてもらうためにも、まずは最初のロケを成功させて準レギュラーにすること。それが目標。

 初めてのロケはキリンの睡眠時間の検証。一日二十分以下と言われているキリンの睡眠時間を調べるというものでした。マイカさんがストップウオッチを持って、動物園のキリンの横にテントを張る。そこで一週間、キリンが一日平均何分寝るのかを調べる。睡眠時間を調べるということは、一人で計測するマイカさんは寝られない。マイカさんのキャラクターを理解している片山さんが神田さんにアドバイスして、このロケにチャレンジすることになりました。

—超面白かったよ。

 片山さんはロケVTRを見て興奮気味に言ってくれました。大成功。寝ないで頑張ろうとするマイカさん、キリンが寝る前にいつも自分が寝てしまう。目を覚ますと寝てしまったことに気づいて、号泣して土下座してスタッフに謝る。

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名刺ゲーム

鈴木おさむ

家族も部下も切り捨て、人気クイズ番組のプロデューサーまで上り詰めた神田達也。ある夜、息子を人質にとられた神田は謎の男から「名刺ゲーム」への参加を命じられる。だがそれは、人間の本性を剥きだしにしていく《狂気のゲーム》だった――。WOWO...もっと読む

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