こうあるべき」という個人の道徳観が、孤独や傷を生みだすとき—。

「なぜ避妊をしない人がいるのか」「なぜ人は不倫をするのか」「なぜ風俗で働くのか」といった問いに対して、分かりやすい答えを出すことはできません。避妊も不倫も性風俗も、失敗した場合の出口(結末)が分かりやすいために叩かれがちですが、入口の動機は無数にあり、複雑で不確定なのです。個人の道徳観や感情的な好き嫌いを根拠にするのではなく、ひとりひとりが抱える「小さな物語」を見つめていくことについて、考えてみます。

6 孤独と避妊

【18歳の問い⑥】
 妊娠した女子高生が学校のトイレで出産したり、産んだばかりの赤ちゃんを遺棄してしまうニュースが流れていて、胸が痛いです。でも、そもそもなぜ避妊しなかったのか、全く理解できません。避妊しなければ妊娠するなんて、当たり前のことなのに。考える力が足りないんじゃないの?

●妊娠は、人を選ばない

確かに、あなたの指摘はごく真っ当です。避妊しなければ、妊娠する。中学生でも分かる理屈です。そうした理屈が分からずに軽率にセックスし、望まない妊娠をして、周りの人間に迷惑をかけ、赤ちゃんを不幸に追いやる。そんな連中はけしからん、自業自得だと憤るあなたの気持ちもよく分かります。

セックスの時に避妊をしない人たち、結果として思いがけない妊娠をしてしまう人たちはみな理性が弱く、性に関する知識や一般常識の欠如している残念な人たちに違いない。そういった先入観を抱いている人もいると思います。

しかし、そうした理性至上主義の考えを持っている18歳男子にとっては不都合な真実かもしれませんが、妊娠は個人の理性や意志だけでは防ぐことができません。

「性感染症は人を選ばない」という言葉があります。性感染症というと、「性的にふしだらな人が感染する病気」「真面目な人であれば感染しない」という偏見がありますが、初交年齢(初めてセックスした年齢)の早さや遅さ、セックスの頻度やパートナーの人数、学歴や職業・資格といった社会的地位にかかわらず、これまで一度でも性体験のある人であれば、感染するリスクとは常に隣り合わせにあると言えます。性器ヘルペスや尖せん圭けいコンジローマ、毛ジラミのように、コンドームを使用していても感染する病気もあります。

性感染症と同じように、妊娠も人を選びません。女子高生の妊娠は、中退率の高い教育困難校だけではなく、地域でトップクラスの偏差値を誇る進学校でも起こります。全ての高校生は、偏差値や地域を問わず、妊娠するリスク・妊娠させるリスクと隣り合わせにあると言えます。

厚生労働省の「平成26年度衛生行政報告例」によると、10代の人工妊娠中絶件数は17854件。一日につき約48人、1時間につき2人の未成年者が人工妊娠中絶を選択している、という現実があります。

こうした現状は、あくまで精神的に未熟な10代特有の現象であり、年齢が上がっていけば、避妊に関する知識や情報を持っている人、及びその場の感情に流されず理性的に判断できる人が増えて、人工妊娠中絶の件数は下がっていくはずだと思う人もいるかもしれません。

しかし現実は反対で、人工妊娠中絶件数はむしろ年齢が上がるとともに上昇します。

20代では76445件(10代の約4・2倍)、30代では69732件(10代の3・9倍)と、いずれも10代の件数をはるかに大きく上回っています。40代以上でも17856件と、10代とほぼ同数の件数が報告されています。

●女性を責めるのは、百害あって一利なし

つまり避妊の失敗は、本人の年齢の若さ、それに伴う理性の未熟さ、知識や道徳の欠如だけでは決して説明できないのです。相手の男性から強引に押し切られて、断り切れずに避妊なしでのセックスをしてしまう女性もいます。逆に避妊をしないことが愛情表現の一つだと考えて、女性の方から避妊無しのセックスを申し出る場合もあります。また性暴力や性虐待の結果、不幸にも妊娠してしまうこともあります。

予期せぬ妊娠に直面した女性からの相談を受け付けている非営利組織や窓口は、全国に数多く存在します。専門知識と熱意を併せ持った相談員の方々が、思いがけない妊娠をした女性を支援することで、学校や自宅での出産、妊婦検診未受診での飛び込み出産、生後0日目の赤ちゃんの虐待死、出産後の遺棄などを防止することを目指して活動しています。

そうした妊娠相談支援の現場では、「相談に訪れた女性を相談員の価値基準で評価したり、彼女の置かれている状況に対して道徳的解釈をすること」は相談員としてふさわしくない態度として否定されています。

思いがけない妊娠という混乱と不安、苦悩の中で、ようやく意を決して相談窓口に連絡してくれた女性に対して、「不用意なセックスをして妊娠したあなたが悪い」と責めるような言動をしてしまうと、その時点で信頼関係は断ち切られてしまい、女性は二度と相談に訪れなくなります。結果として、お腹の中の赤ちゃんも救えなくなってしまう。

相談現場では、「女性の多くは、既に思いがけない妊娠をしてしまったことに対して自分を強く責めているため、相談員がそれ以上責めるような発言をすることは百害あって一利なしである」という考えが徹底して共有されています。

上から目線で説教や助言をするのではなく、まずは本人の困惑や混乱を受け止める。その上で、相手の心情に共感しながら、「産んで育てる」「産んで託す(特別養子縁組など)」「産まない(人工妊娠中絶)」というそれぞれの選択肢の可能性について中立的な立場から情報提供を行い、「本人がどうしたいのか」を最優先にした上で、慎重に自己決定するように促していく……という流れが相談支援の現場でのスタンダードになっています。

●真逆の対応をしている教育現場

しかし実際の教育現場では、こうした妊娠相談支援の現場とは全く正反対の対応がなされています。

多くの高校では、女子生徒は妊娠したことが判明した時点で自主退学を余儀なくされるというケースが少なくありません。「妊娠した女子生徒は退学しなければならない」という国や自治体の規則はありませんが、学校にとって妊娠は「問題行動」以外の何物でもありません。「性的な存在であるべきではない」と考えられている女子高生が「お腹の大きい妊婦」という極めて性的な形で学校生活を送ることへの学校側の抵抗感、そして通学継続のための配慮不足などもあって、多くの女子生徒が自主退学に追いやられているのが現状です。

当然ですが、妊娠は一人ではできません。必ず相手方の男性がおり、妊娠したことに対する責任や経済的費用も、二人で等しく負担すべきです。しかし、相手の男性が年上の社会人である場合、男性は社会的な責任を問われることなく、女性だけが自主退学という形で責任をとることになります。

つまり、妊娠した時点で「一発アウト」と認定され、女性だけが一方的に教育の機会を奪われたまま、社会的に排除されてしまう。

若年妊娠の背景には、貧困や虐待などの家庭内の問題が隠れている場合があります。「望まない妊娠をした女子高生」という、最も性教育と社会的支援を必要としている存在を、「他の生徒に悪影響を与えるから」という理由で、教育や支援を受ける機会を奪った挙句、大人たちの見えない場所へと排除してしまう。

こうした学校側の姿勢、そしてそれを容認している社会に対して、シングルマザー支援や貧困問題に取り組むNPOの関係者からは批判の声が上がっています。

本来であれば、学校側には「生まれてくる子のためにも高校を卒業しよう」と本人に思わせるような支援や教育、服装や出席日数などへの配慮を行う必要があるはずです。本人の退学の意思が強い場合でも、中退後の生活相談や就労支援、資格取得の支援につなげるなど、教育機関としてやるべきことはいくらでもあるはずです。

そういった発想や支援がほとんど生まれず、ただ妊娠した女子生徒を責めるだけ、排除するだけで終わってしまう。この背景には、あなたが冒頭の問いで述べたような、性的に失敗した人を「けしからん!」「自業自得だ」とみなして「即退場」に追いやる風潮があります。

●「性的なことで失敗したら一発アウト」の社会

学校教育の現場で顕著に表れている通り、私たちの社会では、なぜか性に対しては、皆失敗を一切許さない・認めないという、極端な完璧主義に陥ってしまいがちです。

10代の若者に対する性教育に関しても、そうした極端な完璧主義の影響からか、「寝た子を起こすな」「時期尚早」という理由でストップがかかることがあります。では、その「時期」とやらがいつになったら来るのですか? と質問しても、誰も答えられません。

2016年から始まった不倫報道ラッシュでは、「配偶者以外の相手とセックスをした」というだけの理由で、多くの政治家や芸能人、有名人が個人情報を大々的に晒さらされ、公職を追われ、仕事や社会的地位を失いました。確かに不倫は不法行為であり、配偶者に対する背信行為でもあるので、配偶者に対してはきちんと謝罪する必要があります。

しかし、世間に対して謝罪する意味や必要性は、果たしてどこまであるのでしょうか。そして、一度の不倫によって、特定の個人を社会的に抹殺するような報道がなされることに、果たしてどれだけの正当性があるのでしょうか。

私の運営する一般社団法人では、弁護士やソーシャルワーカーと連携して、風俗店で働く女性に対する無料の生活・法律相談を行う「風テラス」という活動を実施しています。

あるテレビ局の番組で風テラスの活動が取り上げられたことがあったのですが、その際に取材を担当してくださったディレクターの方に聞いた話では、番組の企画会議で他の女性ディレクターから「この活動は番組で取り上げるべきではない」と批判されたそうです。「女性が風俗に堕ちた後に支援をしても意味がない。堕ちる前に支援をしなければいけないのではないか」というのが女性ディレクターの主張だったそうです。

当たり前の話ですが、風俗で働き始めた後も彼女たちの人生は続きます。「風俗で働くことを選んだ時点で、その人の人生は終わり」という発想は、社会的に孤立する人・排除される人を増やすだけで、誰も得をしません。

同じように、「離婚したら人生は終わり」「シングルマザーになったら人生は終わり」と考えている人はたくさんいます。

夫から苛烈なDVを受けていても、「離婚をしたら、子どもが学校でいじめられるから」という理由で離婚に踏み出せない女性もいます。風俗店で働いていることやAVに出演していることが家族や職場でばれたら、もう生きていけないと思い込んでいる女性もいます。そうした女性の後ろめたさを逆手にとって、「ばらされたくなかったら自分と付き合え」と脅しをかける男性もいます。

性に対する完璧主義=失敗を許さない・認めない姿勢こそが、「一度失敗してしまった自分には、もう生きる価値がない」といった自責の念、「一度失敗した人間は、二度と社会の表舞台には立つべきではない」といったスティグマ、それに伴う社会的孤立を生み出していることは明白です。

●道徳という病

こうした完璧主義の背景には、道徳の問題が隠れています。

あなたが女子高生の妊娠を不快に感じることの背景には、「女子高生は性的にこうあるべき」という一定の道徳観があると思います。「女子高生はセックスをするべきではない」という保守的な道徳観から、「セックスはしてもいいけど、きちんと避妊はするべき」という比較的リベラルな道徳観を持っている人など、人によって様々です。

私やあなたを含め、全ての人は、自分の性や他人の性に対して、「こうあるべき」といった道徳観を抱いて生きています。そのこと自体は特に問題ではありません。

問題になるのは、個人の道徳観を他者に押し付けたり、社会全体の道徳観として拡大適用しようとする場合です。たとえば「高校生同士はセックスをするべきではない」という道徳観を持っている人が、「高校生同士のセックスを禁止する条例や法律をつくろう」と言い出したら、大問題ですよね。

「高校生はセックスをするべきではない」という道徳観を持つこと自体は個人の自由ですが、それを社会全体に無理矢理当てはめようとすると、多くの人を傷つけてしまったり、孤独に追いやってしまう結果になります。

性に関する問題は、どうしても個人の道徳観、感情的な好き嫌いを根拠に議論が行われてしまいがちです。社会的な課題の解決や被害者の救済よりも、「誰かを叩いてスッキリしたい」「不愉快な行為をする人たちを、とにかく目の前から消し去りたい」という感情的な欲求に基づいて政策や法律がつくられてしまうこともあります。

しかし、「なぜ避妊をしない人がいるのか」「なぜ人は不倫をするのか」「なぜ風俗で働くのか」といった問いに対しては、分かりやすい答えを出すことはできません。避妊をしない理由、不倫をする理由、性風俗で働く理由は人それぞれであり、必ずしも第三者が偉そうに代弁・批評できるようなことではありません。

避妊も不倫も性風俗も、失敗した場合の出口(結末)が分かりやすいために叩かれがちですが、入口の動機は無数にあり、複雑で不確定です。

もちろん、分かりやすい答えはいくらでも用意できますが、仮にそうした答えに基づいて説明をしたところで、避妊に失敗する人や不倫する人、性風俗で働く人は減りません。

(つづく)

「誰と交わっても空しい」あなたに贈る、生き抜くためのサバイバルガイド!

この連載について

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孤独と性をめぐる11のレッスン

坂爪真吾

高校の三年間、友だちは一人もできなかったし、恋人も作れなかった。恋愛もセックスも何一つできなかった。一発逆転を賭けて東大を目指すも、センター試験は全教科白紙で提出。すべてから逃げ出した坂爪少年は「卒業式が終わったら、自殺しよう」と決意...もっと読む

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restart20141201 アウトはアウトで「退場」してもらわないと、周囲の人間に「望まぬシワよせ」を強制することになる。 妊娠は、人を選ばない。|坂爪真吾| 5日前 replyretweetfavorite