ゲイに恋する「ニュートロイス」です

今回、牧村さんのもとには「私はニュートロイスです。ゲイの友人に想いを寄せているけれど、セクシャリティの違う人間から好きになられても迷惑かもしれない」というお悩みが届きました。「ニュートロイス」という言葉を初めて聞く方も多いと思います。牧村さんはその言葉の意味を説明しながら、相談者に優しく寄り添い、大切なものを見失わないための方法を考えていきます。


※牧村さんに聞いてみたいことやこの連載に対する感想がある方は、応募フォームを通じてお送りください! HN・匿名でもかまいません。

性のことで悩んだ時、あなたは、まずどうしますか?

性のことについて書く文筆家という仕事柄、わたしは、いろんな人にこの質問をしてきました。「スマホで検索する」というのが、最も多い答えです。便利だし、自分の手元だけで見られるしね。

けれど多くの場合、スマホで見つけられる情報は、あなたのことを知らない人によって作られたものです。インターネット上の情報はそのままあなた自身のことを説明してくれはしないどころか、むしろかえってあなたを苦しめる可能性すらあります。

今回は、ご自分を「ゲイに恋する“ニュートロイス”である」と自認する方からご投稿をいただきました。お話を伺いつつ、インターネット上には見つからない大切なものを見失わないための方法を考えて行きます。

では、さっそくご投稿を紹介しましょう。青い字の部分です。

はじめまして。私は現在悩んでいます。そんなときに偶然牧村様の「付き合っている彼女が『彼』かもしれません」の記事を拝見して驚き、あなたに相談したいと思いました。

私は、現在はパンで女性の身体を持ったニュートロイス(無性)です(※)。
(※牧村注……「パン」は「パンセクシュアル」の略。男、女、どちらにも当てはまらない人も、性別関係なく恋愛対象になりうるという性的指向で、日本語では「汎性愛」などとも訳される。「ニュートロイス」については後述)

今、友人の一人の男性(仮)に想いを寄せています。その方(以下Aさんとします。)は少し前まである女性と交際していました。ですが、最近Aさんから「自分は基本的にはゲイである」と打ち明けられました。その時には恋人さんとも別れており、彼女を好きになったのは特例中の特例だったとも告げられました。Aさんには私のこともカミングアウト済みです。

私はAさんの人となりに惚れていました。彼がゲイでもそれは変わりません。彼が打ち明けてくれて嬉しく思いました。 ですが数日後、自分が恋愛対象にならないと思うと悲しくなってしまいました。恋人が居た時からずっと遠回しにフラれ続けている様なものなのに、さらに門が狭まってしまいました。もう閉じているかもしれません。彼をまだ好きだという気持ちがより苦しくさせます。

キッチリフラれた方が良いと思ったのですが、その後どうなるのかわからなくてこわいです。彼は優しいので友人で居てくれるかもしれませんが、もし今の関係も壊れたらと思うと恐ろしいです。Aさんは、思い人であると同時に私の数少ない友人でもあるのです。

また、セクシャリティの違う、対象外の人間から好きになられても気持ち悪い、迷惑かもしれない、そもそも好きでいて良いものなのか、と考えてしまい身動きが取れません。もうどうしたら良いのかわからなくなってしまいました。

まとまりのないつたない文章になってしまい申し訳ありません。ですが、あなたの助言がいただけたら幸いです。

(ご投稿を全文掲載しました)


ご心労、お察しいたします。また前の記事を読んでくださってありがとうございます。挙げてくださった過去記事「付き合っている彼女が『彼』かもしれません」および、前回記事「性を笑いごとにしてしまうカタカナ略語」にも通じる話だと思いますが……ご投稿者の方は、自由になるための言葉でかえって不自由になって苦しんでおられるのでは、と、わたしは思いました。

好きでいちゃいけないわけ、ないじゃない。

ご投稿者の方は、Aさんを好きになった。けれども今の関係を壊したくないから、想いを告げるのがこわいと感じていらっしゃる。……そんなシンプルな話です。「パンで女性の身体を持った“ニュートロイス”はセクシャリティの違うゲイを好きでいて良いものなのか」と、話を複雑になさる必要はありません。

そもそもね、“ニュートロイス”という用語、実は間違いなんですよ……ある意味、ですが。そして、わたしがこれからお話することが間違っていなければ、ですが。

もっとも、「ニュートロイスを自認する人はみんな間違ってる」とか「あなたは本物のニュートロイスじゃない」とかジャッジするつもりは全くありません。そうじゃなくて、「あなたはインターネットかどこかからニュートロイスという言葉を拾って余計に悩んでいらっしゃるようだけれど、その言葉は本来あなたが自由になるために使えるものですよ」という話を今からしたいと思います。

あくまで推測ですが……おっしゃっている“ニュートロイス”というのは、neutroisのことでしょう。確かに、日本語の個人ブログやWEBメディアでは“ニュートロイス”とカタカナ表記されています。しかし本来これはフランス語のtroisを語源とする単語ですから、“ニュートロワ”に近い発音をします。

neutroisは、直訳すれば「新しいどちらでもない3番目」とでもなるでしょうか。「新しい」を意味する接頭辞neu-と、フランス語で3を意味するtroisを組み合わせ、全体の音が「どちらでもない、避妊・去勢された」などを意味するneuterに似るように作られています。アニメが好きな方なら、ガンダムWの三番目のパイロットが「トロワ」って名前だったことを思い出されるんじゃないかしら? うたプリのフランス三銃士の話も、「トロワ」でしょ。あれです。で、ニュートロワ、というわけ。facebookの性別欄に記入することもできるそうです。意味はこんな感じ。

・中性、無性、男でも女でもない、ジェンダーレスな、アジェンダーな
・自分がニュートロワであると自認する人
(参考:心理学専門メディアPsychology today ”The ABC’s of LGBT+” Ashley Mardell)

メジャーどころの英語辞書には載っていない単語ですが、単語の発音をまとめたサイトhowtopronounce.comYouTubeで発音を聞くことができます。わたしは専門家としてブルックリンとウエストハリウッドでLGBTsの資料館を取材して確認しました(自己PR)。で、この本の用語集にもまとめました(自己PRその2)。英語話者にとっても発音が難しい新語だそうです。

これが、日本語インターネットでは「ニュートロイス(無性)」と表記されて広まったわけですね。そして、ご投稿者の方に「Aさんを好きでいていいのか」などと思わせてしまった。

この続きは有料会員登録をすると
読むことができます。
cakes会員の方はここからログイン

1週間無料のお試し購読する

cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。

人気の連載

おすすめ記事

この連載について

初回を読む
ハッピーエンドに殺されない

牧村朝子

性のことは、人生のこと。フランスでの国際同性結婚や、アメリカでのLGBTsコミュニティ取材などを経て、愛と性のことについて書き続ける文筆家の牧村朝子さんが、cakes読者のみなさんからの投稿に答えます。2014年から、200件を超える...もっと読む

この連載の人気記事

関連記事

関連キーワード

コメント

natukusa “そのオリジナルさを無視する雑な区別に抗うために、人は、新しい言葉をナイフにして道を切り開いたのだということを。” https://t.co/xX0pizNuAJ 「性質の定義」とは時に旧来的価値観からの解放として用いられるが、… https://t.co/XqfWd8EnCw 1年以上前 replyretweetfavorite

i_overthere https://t.co/Q1XMwfZUYU 1年以上前 replyretweetfavorite

Castella_34 ‟「ゲイと女性の身体を持つパンで“ニュートロイス”」とか「友情か恋愛か」とかじゃなくて、「その人とわたしの関係をより良いものにするにはどうすればいいか」を、ぜひ考えてみてください” 1年以上前 replyretweetfavorite

chihiro_nzw あの人に愛されるには、から、あの人と私の関係をよりよくするには。あなたは用語でなど表せない、もっとオリジナル。響くなあ。ホント牧村さん好き。 1年以上前 replyretweetfavorite