女の人は子どもを産んで母親になったら、とくに自己紹介をするまでもなく「あ、この人は主婦なんだな」「母親だろうな」と見た人から思われるような格好しかできなくなるものなのだと思っていた。
それは、幼い頃から街中で見かける”お母さんらしき人”が、みんな、どことなく似た雰囲気の格好をしているイメージがあったからでもあるし(実際、お母さんなのかどうかも知らずに「きっとあの人は子持ち」と私は反射的に判断していた)、自分が適齢期を迎えて、同世代に子持ちの人が出てきた時に「好きな格好ができない」とか「子どもが生まれてからは全然だけど~」という風にして、着れなくなったものや履けなくなったもの、やれなくなったオシャレにまつわる愚痴のようなものを何度となく耳にしてきたから「子どもが生まれると、ああいう服を着ざるを得ないんだろうな…」「やっぱり育児中ってオシャレができないんだな」という印象を持っていた。
だから、いざ出産をしてみて、私は拍子抜けした。「あれ? 服、変わらなくない?」というのが率直な感想で、息子が生まれてから8ヶ月が経ったけれど、洋服を買いに行くお店も変わっていなければ、買う時に「育児中だからな…」と何かを諦めるような体験もしていない。
これは実際に育児をしてみて初めて気が付いたことだけれど、育児に都合のいい服とデートをする時に都合のいい服は、ほとんど完全に一致していた。
デート向きの服とは、「脱がせやすい服」のこと
そもそも子どもが生まれる前の私がどんな服を着ていたかと言うと、身に付けるものを選ぶ基準は靴であれ服であれ一貫して「男ウケが良さそうか?」だった。買い物をする時は常に「この服はデート向きの仕様だろうか?」という目で見て、厳選していた。
私にとって「デート向きの服」というのは、具体的に言うと「脱がせやすい服」のことだった。男の人にとって、いかに脱がせやすいか。
だから例えば、どうやって脱ぐのかよく分からないような個性的なものや、「どこがチャック?」と迷わせたり、フェイクのボタンで恥をかかせたりする可能性があるような複雑なデザインの服はNGで、スキニーデニムのようにギチギチしていて脱ぐのに一苦労な服もNG。
脱がしづらい服は性行為のハードルを上げるから、どうにかなれるものもなり損ねる。だから、そういう服を着ることは「私は今日、性行為をする気がありません」という宣言にもなりかねない。私は絶対に、そんな誤解を招きたくない。そんなのすごくもったいない。そう思っていた。
そんな私にとってベストなデート服は、なんならちょっと引っ張ったら脱げてしまうような着脱のしやすい服。それが好きな男の人と会う時にもっとも都合がいい。そう考えていた。
そして、いざ育児をしてみたら、驚くことに育児をするのに都合のいい服の条件は、デート服のそれと同じだった。少なくとも乳児期の育児においては一緒。つまり、性行為をしやすい服と授乳がしやすい服は同じだった。
よく考えみれば、どちらもおっぱいに触りやすいことが肝心だから当然といえばそうなのだけど、世の母親らしき人の服装のイメージとはかけ離れていたから盲点だった。
息子と出かける時、私が服を選ぶ基準は、まず第一におっぱいが出しやすいかどうかだ。片手に息子を抱きながらでも、サッと乳首を取り出せて、またサッと乳首をしまうこともできるか、これが何よりも大事だ。
それが可能な服だと、出先でのちょっとした授乳が本当にスムーズで、授乳室が見つからなくても人目さえないところを確保できれば、サクッと授乳を済ませることができる。その結果、母子ともに平和な時間を過ごせる。
だから、息子連れで出かける時は、乳首がすぐそこにあるような服を選ぶのだけど、それってつまりセクシー系の服。男の人にとっておっぱいに触りやすい服は、赤ちゃんにとっておっぱいが飲みやすい服で、男の人が喜ぶような服は、赤ちゃんも同じくらいに喜ぶ。
赤ちゃんが洋服に吐いてしまったら
また、「赤ちゃんがお気に入りの服に吐いちゃったり、よだれがついたらイヤだから、子どもを産むとガンガン洗濯できるような服しか着られなくなる」というのも一般的によく聞く話だけれど、その不自由さも、私は今のところ感じていない。
というのも、赤ちゃんが吐くものやよだれは基本的に透明か白だし、大人のよだれや吐瀉物と違って全然クサくないから(神秘的)、軽く洗うだけで落とせる。
しいて言えば、抱っこをしているタイミングでウンチがオムツから漏れるようなことがあると、それは洋服が危険だけど、赤ちゃんが大量のウンチをするシチュエーションには、ある程度の法則性があるから(授乳中や食後は出しやすい)、ウンチをするかもしれない時に抱っこをする場合は、自分と赤ちゃんの間にブランケットをかませるなどすれば、仮にオムツから盛大に漏れても、服は汚れない。(ガンガン洗濯できるような服を着ている場合でも、出先で服にウンチがつくとピンチだから、どちらにせよこのくらいの対策はしておいた方が安心。)
実際、出産後に買った服で10万円の白いブラウスがあって(胸元がキューティーハニーのような感じであいていて、これもまた授乳がしやすい一品)、私の感覚では「高級品だな」と感じている1枚なのだけど、息子とのお出かけで普通に着ているし、着たことを後悔するような出来事も起きていない。
また、「繊細な服や高級な服は、洗うと傷むからイヤ」と言う人もいるけれど、そもそも、そういう服を普段着にするのは恋愛ではかなり不利で、モテなくなるからオススメしない。
だって、男の人からしたら「絶対に汚れたら困る」ような服を着ている女の人には手を出しづらい。
男女というのは突然に盛り上がるものであり、盛り上がっている性行為ほど、その一連の流れには服が汚れかねない場面がいくつもある。汗は間違いなく付くだろうし、よだれも、まあ付くだろうし、場合によっては体液だって付きかねない。
高級な服を着ることを習慣にしてしまうと、すごくお堅い女になってしまうと思う。人は「洗えない服を着ている」という意識があると、もはや無意識に「服を汚さないように」という行動を取るけれど、それって確実に性行為のハードルを上げるし、つまり恋のチャンスを遠ざける。
人生って、そういうことの積み重ねで簡単に狂う。どんどん別物になっていく。
私は、自分がこれまで男問題でほとんど苦戦せずに生きてこれたのは、服選びがうまかったこともあると思っていて、性行為をしやすい服を選ぶことって、かなり大切なことだと思う。なんなら服選びからが前戯。いい雰囲気づくりの一端を担ってる。
だから、そこに非協力的なのはマグロみたいなもので、私が男だったら萎える。「やる気ないんだな」と感じて、手を出す勇気がしぼんでしまう。(ちなみに、恋愛対象じゃない男性に会う時など、絶対に手を出してほしくない場合には逆にスキニーやおっぱいが取り出しづらい服を選ぶ。)
歩きにくい靴は運命を変えてしまう
また、「育児中だとヒールが履けない」という悩みも定番だけれど、それについても同様で、どちらにせよ、機動力の高い靴で生きていくことって大事だと思う。歩きにくい靴を履いていると、人生からいろんな可能性が失われてしまう。
私は足が痛い時、さっさと帰りたくなる。靴箱の中の靴がどれもが歩きづらいものだと完全に出不精になる。靴に不快感があるとフットワークが重くなる。寄り道する気が起きなくなる。あれもこれも「やめておこう」ってなる。
だから歩きづらい靴には、悪い意味で、運命を変えてしまう力があると思う。
確かに育児が始まると、子どもを抱いて歩くにあたり絶対に転ぶわけにはいかないから、安全な靴選びが必須になるけれど、私は独身時代から、靴の機動力の高さにはこだわっていた。
靴が理由で、何かを断ったり、早く帰りたくなることを絶対に避けたかったから。
恋愛の場面ではとくにそうで、まだ出会って日の浅い相手とのデートなど、その時期の男女にとってはノリと勢いが一番大切なものだから、どんな急な提案にも対応できる靴選びをしておくことは当然の準備だった。
「そういう靴を履いてきてないから」なんて理由で、好きな人からの誘いを却下するなんてことは絶対に避けたい。
だから、靴を買う時にはいつも機動力の高さを重要視していた。「運命を変えてしまわないか?」という目で見て、合格した靴だけを買っていた。
とはいえ、見た目も超大事だと考えていて、私は脚を綺麗に見せることに関しては人よりも執着心が高い方で、街中を歩く女性を見ては「うわ、脚が損してる」とか「うわ、靴と服のせいで脚がすごく太く見えてる、もったいない…!」などと心の中で突っ込まずにはいられないほど、脚の見え方への関心は高い。
だから、靴を選ぶ時は、機動力にこだわりつつも、同じくらい脚の見え方にもこだわってきた。
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