見た目はラブリー、でも中身は……
野食をする、ということは極論的にいえば「自らの手で食材の命を奪う」ということです。その中で、自ずと「食材への感謝」が生まれ、食べられることのありがたみを痛感することができます。
だから、野食をやる人たちの多くは、「食材を無駄にしてしまう」行為に対して人一倍強い抵抗感を持っています。自分が食べるために他者の命を奪っているわけだから、当然のこと。
ぼくの周囲の野食クラスタのみなさまも、動物だろうが植物だろうが、通常の流通では廃棄されてしまうような部位まで利用し倒しており、その様子にいつも感銘を受けています。
ぼくもぜひそうありたいと思いながら、日々さまざまな食材にトライしているわけですが、そもそも野食材はヒトに食べられるために存在しているわけではないので、ときには決して美味しいとは言えないものに出会ってしまうことがあります。
もちろん最低限「毒はない」ことくらいは確認して臨むのですが、それでもこちらの想像をはるかに超えてくる味わいのものと出会ってしまうと「この食材を採ってきたのは誰だぁっ!!(ぼくです)」と雄山ばりにブチ切れてしまうこともあるわけです。
それでも、食べるために採ってきたわけですから絶対に無駄にはできない。
自分の持つ引き出しを目いっぱい用いて、どうにかして食べられる状態に仕立てあげる、これもまた野食におけるひとつのだいご味です。
酸味があればマヨネーズで上書きする、苦味や辛みがあれば茹でこぼす、臭みに対しては味噌やショウガなど薬味で戦うetc…ある程度野食をやってきた人間なら、ある程度の風味についてはごまかす方法を熟知しているものです。
しかし、それでもやはり敵わない食材(そう呼べるのかもわからない)と出会ってしまった結果、大変な目に遭ったことがこれまで何度かあります。
今回は、そのようないわば「ババを引いてしまった話」をしていきたいと思います。
食材として移入されたはずなのに
数年前のある日、ぼくは茨城県にある日本第2の面積を誇る湖、霞ヶ浦の湖畔にいました。
狙いはナマズ。それも普通のナマズではなく「アメリカナマズ」という種類の魚です。これを釣るために、はるばる霞ヶ浦まで車を走らせたのです。
アベレージサイズのアメリカナマズ
アメリカナマズは名前の通り北アメリカ原産の外来種で、現地ではフィレオフィッシュの原料となるなど、食用魚として非常に有用なもの。そのため40年ほど前に養殖目的で日本に移入されたのですが、これが逃げ出し(故意に逃がしたという説もある)霞ヶ浦からそこにつながる利根川、江戸川、そして印旛沼に至るまで定着してしまいました。
食性の幅が広く、生態系に悪影響を与える懸念から特定外来生物に指定されており、食材や飼料として利用する取り組みが進められています。
それを聞きつけ「我々もぜひとっ捕まえて食べてやろう、環境保全にも貢献できて一石二鳥や!!」と意気込んだのです。それが惨事の入口になるとは思いもせず……
地元の釣具屋にポイントを聞いて、向かったのは北部にある漁港の岸壁。
ナマズ類は夜行性のため、日が暮れるのを待って、サンマをつけた針を投げ込みます。
やがて同行の友人の竿がぐぐぐっと引き込まれ、釣れ上がってきたのは
!!!
どデカい!
80㎝はあろうかという本命です。
これは食べ応えがありそうだと、大騒ぎしながら友人とハイタッチします。
しかしこの時冷静になっておくべきでした、そうすれば、その体表のヌメリがなんだかヤバい匂いを放っていたことに気づけたかもしれないのに……。