4th Stage
ダッシュカンパニー マネージメント部 山本司
三枚目の名刺を返してもらった男性、松永累さんが部屋から出ていったあとに、玉虫色のスカーフをした男性は神田さんに聞きました。
——日本人の誰もが好きな名曲があるとする。その曲で命を救われた人もいる。だけど、それはアーティストが覚醒剤を打って作った曲だとしたら、どうでしょう?
突然すぎる質問。その時には気づけなかった、私に対して投げている質問だったって。
神田さんの持っている名刺は残り三枚でした。
——大山高校教諭 薄井忍。
——AYUZAKエージェンシー CEO TAGAMI NARIKAZU。
そして、私の名刺。
——ダッシュカンパニー マネージメント部 山本司。
神田さんの前に残っているのは私と、もう一人、目に復讐心を宿したような男性。神田さんが名刺を見つめたまま動けないのを見ると、玉虫色のスカーフをした人は言いました。
——悩んでるフリ、やめてください。確実に分かるやつあるでしょ、一枚。
この部屋に入ってきた時から、神田さんは私のことだけは分かっていました。私の顔と名刺だけは一致していた。
——ダッシュカンパニー 山本司さん。分かってるでしょ?
分かっているけど神田さんは私に返せなかった。返したくなかった。
——返しづらい理由でもあるんですかね? 子供の前で。
——そんなものないです。
——だったら返せばいいじゃないですか。どんな関係なのかを説明しながら。
きっと神田さんは、壁に磔にされている息子の和也君には聞かれたくない、知られたくないんだと思う。だからここまで私の名刺を返せなかった。
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