河邉徹
時間を超越するもう一つの奇跡
【管理人の夢⑯】
次に訪れた女性は亡くなった祖母との思い出が原因だった。人懐っこい彼女につい気を許してしまいそうになったが、「夢の管理人は全ての夢に公平でなければならない」というルールを思いだし、気持ちを抑えて、夢を修正する。その後の様子をモニターで見ていたのだが……
<WEAVERの河邊徹がドラムスティックからペンに持ち替えて描いた作家デビュー作!>

イラスト:堀越ジェシーありさ
次に夢工場へ来たのは、麻美さんという、私と同い年くらいの女の子だった。
彼女も健人くんと同じように、繰り返し同じ夢を見ていたようだが、事情は全く異なっていた。彼女はもういなくなってしまった祖母に対して、ある後悔の念を抱いているようだった。そしてその祖母への強い思慕に、夢の要素が結びついて、悲しい夢を見ていたようだ。
同じ夢が繰り返し訪れるのは、よほど強い想いがある場合か、他の人の夢に影響されてということがほとんどだ。
彼女の場合は前者だと思われるが、亡くなった人にも夢はあるのだろうかと、私は死後の世界のことをぼんやり考えていた。もし別々の世界にいたとしても、夢を引き寄せ合うような奇跡があるのかもしれないと考えるのは、少し私の空想が過ぎるかもしれない。
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この連載について
河邉徹
WEAVERのドラマー・河邊徹の作家デビュー作。バンドで作詞を担当してきた河邊の
〝言葉の世界〟をドラムスティックからペンに持ち替え、描いた「夢」をテーマにした長編作。
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著者プロフィール
1988年6月28日、兵庫県生まれ。関西学院大学 文学部 文化歴史学科 哲学倫理学専修 卒。ピアノ、ドラム、エレクトリック・ベースの3ピースバンド・WEAVERのドラマーとして2009年10月メジャーデビュー。バンドでは作詞を担当。
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