時には逃げるも恥じゃない
「成井、失敗はゴムパッチンなんや」
相手企業への謝罪訪問の帰り、「ヒカリエから飛び降りろ!」と怒鳴った部長がこんなことを言いました。
たとえ失敗しても、いつかそれは成功になって返ってくる。ゴムパッチンのように、その失敗が大きければ大きいほど、返ってくる成功も大きい。失敗しないのは勝負をしていない人。そういう人は大きな成果は残せない。成井は1億の受注を取りにいく、という大勝負をしたんだ。部長はそんなことを言ってくれたのです。
どん底にいた私は、この言葉に心底救われました。失敗しても、取り返せばいい。失敗と成功は紙一重なんだ。逆転の発想ができたこの日のことは、今でも忘れられません。
実際に、この大勝負をした経験は、数年後に3億円になって返ってきました。起業後、株式譲渡という選択ができたのも、この時に1億の受注を取りに行くという勝負をしていたからこそだと思っています。
その後も失敗を取り返すべく、仕事に打ち込んでいた私でしたが、入社3年目を迎えた頃、ある決断をします。それは〝逃げる〞こと。
やはり、「30歳までに起業する」という夢を叶えるためには、早く新規事業推進室での仕事を経験したい。でも、DeNAで再び評価されて異動することは難しい……。であれば、環境を変えるしかないと思ったのです。
その頃、TNK時代からの親友でもある同期の山敷君と飲んだことも、きっかけとなりました。彼は社長室専属で新規事業を担当。会社が数億円のプロモーション費用をかけて挑む、新規サービスの責任者という立場にいました。そんな彼と話していて、視点が違いすぎると感じたのです。
今の私は、山敷君と同じレベルで物を見ることはできない。そんな人がたくさんいる環境で私が活躍するなんて、夢のまた夢。だったら、もっと小さい会社に行って実績を作りたい。そんな風に思いました。
そこから転職活動を開始。転職先に選んだのは、当時東証マザーズに上場したばかりのベンチャー企業・トレンダーズ株式会社でした。
年収は50万円ほど下がりましたが、私にとっては「新規事業部に配属」という条件のほうが大事でした。トレンダーズは営業で成果を出したら新規事業部に異動してもいい、と言ってくれたのです。
私はこの時、逃げました。でも、「時には逃げるも恥じゃない」と思うのです。
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