犬ヶ島』 ウェス・アンダーソンが創り出す、摩訶不思議な日本

人気監督の最新作は日本が舞台! 消えた愛犬を探す少年と犬たちの物語が、全編ストップモーションアニメで描かれています。作品の見所や監督のオリジナリティについて、ブロガーの伊藤聡さんが解説します。

『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』('01)、『グランド・ブダペスト・ホテル』('14)などのヒット作を持つ人気監督、ウェス・アンダーソンの新作が『犬ヶ島』である。今作は人形を使って撮影されており、『ファンタスティック Mr. Fox』('09)に続いて2作目のストップモーション・アニメーション作品。20年後の日本にある架空の町「メガ崎市」を舞台にした、犬と人間の冒険物語だ。

メガ崎市では、犬の伝染病が流行したことをきっかけに、すべての犬を追放する法案が可決される。犬たちはみな、都市の廃棄物が日々運び込まれるゴミの島「犬ヶ島」へと隔離され、飢えと病のなかで苦しんでいた。12歳の少年、小林アタリは、法案によって島へ送られた愛犬スポッツを見つけるために、単身犬ヶ島へ乗り込み、探索を開始した。声の出演に、ビル・マーレイ、スカーレット・ヨハンソン、渡辺謙、夏木マリなど。

ウェス・アンダーソンの存在が知られるようになって十数年、彼の特徴的な作風はさまざまなメディアに多大な影響を及ぼしてきた。鮮やかな色使い、左右対称(シンメトリー)の画面構成、印象的な字幕、カメラの横移動・縦移動、図や写真の差し込み、キュートなデザインの洋服やインテリア。こうしたこだわりは斬新であり、たくさんの映画ファンを夢中にさせたが、同時に安易な模倣が増えることにもなった(個人的には、インターネットに数多くある料理のレシピ動画が、軒並み調理場面を上から撮るようになったのも、同様の手法をかねてより多用してきたウェス・アンダーソンの影響ではないかと睨んでいる)。

いずれ彼の手法はありふれたものとなり、飽きられてしまうのではないか? しかし作品を見終えて、こうした危惧は杞憂であったと痛感させられた。ウェス・アンダーソンは真にオリジナルであり、誰にも真似できない個性とスタイルを持つ映画作家であることが、『犬ヶ島』によってあらためて証明されたのだ。

本作もまた、先ほど挙げた彼の特徴的な作風がどこまでも徹底されている。左右対称の画面はあいかわらず執拗なこだわりを持って描かれ、カメラの横移動は物語の印象を決定づける要素となる。また劇中、弁当を作るシーンが出てくるのだが、昨今のレシピ動画と同様、調理場面が上から撮られたりもしている。『犬ヶ島』は、この監督らしい作風がこれまで以上に強調されたフィルムなのだ。しかし、どれひとつとしてありふれた映像はない。すべてがあまりにもみごとに完成されており、執念にも似たこだわりと美意識が炸裂しているのだ。

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およそ120分の祝祭 最新映画レビュー

伊藤聡

誰しもが名前は知っているようなメジャーな映画について、その意外な一面や思わぬ楽しみ方を綴る「およそ120分の祝祭」。ポップコーンへ手をのばしながらスクリーンに目をこらす――そんな幸福な気分で味わってほしい、ブロガーの伊藤聡さんによる連...もっと読む

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コメント

moe_wakusei へんてこでかわいくておもしろい映画だったのでおすすめ!!犬派も猫派もぜひ〜 1年以上前 replyretweetfavorite

sanukimichiru https://t.co/HUwjOzvL5f   「犬ヶ島」視たい!! 1年以上前 replyretweetfavorite

campintheair 『犬ヶ島』。ゴミの島を舞台にしながら、上品、優雅なタッチが終始崩れないのもすばらしいし、ユーモラスな作風も最高。映画を見たら、この評も読んでみてくださいね。 https://t.co/sFknDoj9pY 1年以上前 replyretweetfavorite