柳井政和「レトロゲームファクトリー」

柳井政和「レトロゲームファクトリー」第12回

レトロゲームを最新機用に移植する会社「レトロゲームファクトリー」。社長の灰江田直樹とプログラマーの白野高義(コーギー)は、ある日、業界大手・白鳳アミューズメントの山崎から仕事の依頼を受ける。それは、ファミコン時代の伝説のゲーム「UGOコレクション」全十本の移植。ただ、この実現には大きな障害があった。最後のゲーム「Aホークツイン」の権利だけを買い取った、開発者の赤瀬裕吾が行方不明になっていること。そして現在、その海賊版が出回っていること――。
電子書籍文芸誌「yom yom」に掲載中の人気連載を出張公開。

「はい。それも、このサイレントベルが公開しているのはAホークツインの一本だけです」
「それは不可解だな。なあ、コーギー。Aホークツインは、他のゲームと違って人気はないよな」
「ええ……」
 言いにくそうにコーギーは答える。
「Aホークツインは数こそ出ていますが、マニアのあいだでの評価は低いです。他のUGOブランドのゲームに比べれば、出来は一段下がると言われています。僕も同じ感想です」
 灰江田は、少し考える。
「なにかソフトに問題があるのか」
「いえ。バグがあるとか、そういうわけじゃないんですけど、簡単すぎますから。Aホークツインは、二人同時プレイできるシューティングゲームですが、二人で遊ぶ意味があまりありません。個別に弾を撃つだけです」
 コーギーは、あまり批判したくないといった空気を出す。
「そうか。Aホークツインは、赤瀬の最後のゲームだと言っていたよな。赤瀬は、そこで才能が尽きたのかな」
「そういうわけじゃないと思うんですが」
 コーギーも不可解なようだった。
 それにしても海賊版の開発者は、なぜこの一本だけを移植したのだろうか。そこに理由がありそうだと思い、コーギーに尋ねる。
「そうですね。海賊版の開発者は、ゲーム自体に思い入れがあるのかもしれません。あるいは開発者の赤瀬さんに対して、なにがしかの感情があるのかもしれません。どちらにしろ、僕らの知らない事情があるのでしょう」
「コーギー、おまえはどう考える」
 灰江田は、相棒がこの件をどうとらえているのか聞こうとする。
「後者の可能性、つまり赤瀬さんに対する個人的な感情があるのだと感じています。ただの直感でしかないですが」
 声に自信がない。論理的ではないとコーギーも承知しているようだ。しかし、そうした直感も、ときに大切だ。
「いいか、コーギー。その道に詳しい人間の直感ってのはな、深層学習したAIが導き出す結果のようなものだ。言語化はできないけど、過去の情報に基づいた判断なんだよ。だから、なんらかの理由があると考えてよい」
 人とのやり取りはともかくとして、ゲームに関してのコーギーの判断は真実である可能性が高い。それだけの経験がコーギーにはあると灰江田は考えている。
 コーギーは灰江田の言葉にうなずき、話を続ける。
「幸いなことにアプリが登録されているページには、開発者宛に送れるメールアドレスがあります。ここを起点に勝手移植者を釣ることができるかもしれません」
「なるほど。上手くやり取りして、そいつを引きずり出せば、赤瀬に繋がる情報を得られるかもしれないというわけか」
「はい。もし開発者が、赤瀬さんに対してなんらかの感情があるなら、こちらが知らない情報を持っている可能性もあるでしょうから」
「よし、分かったコーギー。それで、どうやって相手を引きずり出すんだ」
 コーギーはキーボードを叩き、ノートパソコンの画面を灰江田に見せる。
 メールの本文だ。赤瀬裕吾から公開の差し止めを要求する内容になっている。もちろん本人が書いていないので捏造だ。
「赤瀬に成りすますわけか」

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新潮社
2018-05-18

この連載について

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柳井政和「レトロゲームファクトリー」

柳井政和 /新潮社yom yom編集部

失踪した伝説的ゲームクリエイターの謎を追え――。 『裏切りのプログラム ハッカー探偵 鹿敷堂桂馬』で小説家デビューを果たした プログラマー・ゲーム開発者が贈る、本格ゲーム業界小説! 電子書籍文芸誌「yom yom」に...もっと読む

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ruten 小説『レトロゲームファクトリー』のcakes連載第12回が、金曜日に公開されました。ゲーム好きの人も小説好きの人も是非。 https://t.co/y040R3kCpe #cakes #小説 #ゲーム #レトロゲーム https://t.co/9ABJJerzIi 10ヶ月前 replyretweetfavorite