改めまして、わたしは本が好きで、ほぼ毎日本を食べて生きている京都の大学院生「三宅香帆」と申します。
……これだけで自己紹介を終わらせてもいいんですけれど。
そういう訳にもいかない。
というわけで、はじめまして! あるいはこんにちは! またお会いできた方には、嬉しいです、ありがとうございます。昨年『人生を狂わす名著50』(ライツ社刊)という書評本を出版させていただき、その連載をcakesさんに載せていただいていました。
この『人生を狂わす名著50』では合計200冊の本を紹介させていただいているのですが、この本が出版されてから、たまに聞かれることがあります。
「なんで香帆ちゃん、そんなにたくさん本読んでるの?」
え、だってさ。わたしはこう答えたくなります。
「おいしいから」。
心の底からおもしろい本って、そこはかとなく背徳感のある美味しさがあるんですよね。
ひとりで大好きな小説を味わうのは、そう、たとえば深夜にひとりでハーゲンダッツを食べるのと同じ感覚。ちょっとした罪の意識。
あなたがハーゲンダッツを食べる時って、どんなふうに食べますか。
わたしはですね、まず冷凍庫できんきんに冷やしてから、ぺろっと蓋を開けて(蓋についたアイスを少しだけすくって、ってお行儀悪くてごめんなさい……)。最初はアイスの表面が硬いんだけど、すこし時間が経てば表面がとろっと溶けてきて、はぁおいしい~と舌でとろとろ味わって、最後は「あー終わってほしくない」って悲しんで、食べ終わる。おいしければもっかい同じ味を買っちゃう。
本も同じです。
最初はどんな味なんだろうとページを開いて、やっぱり噛み応えがあることが多くて(だって文体や設定に慣れてないと読みづらい)。
でも途中からするっと頭に入ってくる。あああおいしい、と悶える。そして「終わらないでくれ……」と懇願する。だけど最後は「うう、おもしろかったよ」と嘆きつつ、読み終えちゃう。まぁ、あまりにおいしかったらもう一度読み返しますけどね!
消化不良を起こす本もあれば、もうちょっと噛み応えがあってもいいのになと拗ねる本があって。逆に「この味! この味が欲しかったの!!」と感動できる本もある。とにかくどんな本でも、口の中に入れて舐めて味わって、咀嚼して。私はそんなふうに、毎日を過ごしています。そして日々本を噛んで舐めまわして呑み込んでいると、自分が味わうだけじゃ足りなくなります。
欲が出る。——あなたにもこの味を知ってほしい、って。
だから、ちょっとだけ。ちょっとだけ味見してみてほしいのです。わたしが「おいしい!」と思う本を。おいしい本を、一緒に食べてほしい。なんならわたしが食べて咀嚼し終わったその本を、食べてほしい。ていうか、食べて。ねぇ、わたしの咀嚼した本、味見しませんか?
「男の呪い」を描いた傑作。祝・三島賞!『無限の玄』古谷田奈月
というわけで今回ご紹介したいのは、古谷田奈月さんの『無限の玄』。最近、三島由紀夫賞を受賞したばかりの作品です。
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