長野への移住から始まった

長野県東御市にある「パンと日用品の店 わざわざ」。山の上の長閑なこの場所に、平田はる香さんは2009年にひとりでお店を開きました。先月、平田さんがnoteで公開した記事「山の上のパン屋に人が集まるわけ」が大いに反響を呼び、独自の経営スタイル、新しい働き方・暮らし方などに注目が集まっています。連載第1回目は、どうして長野に移住してパン屋を営むことになったのかというところからのスタートです。


現在の庭の様子

何から書いていいものかこうも迷ってしまうのは久しぶりで、中々筆が進まないというかタイピングが進まない。私はここcakesで一抹の清涼剤のような、暑い夏の日に窓からそよぐ風みたいなものになりたいと思いながら、今これを書いている。

noteで書いた「山の上のパン屋に人が集まるわけ」で、所謂バズるという体験をしたら、これまでと同じことをしているだけなのに住んでいる世界が変わってしまった。随分前から購読していたcakesで連載をしないかと誘ってもらったこと、連日たくさんの出版社に本を書かないかと声をかけてもらったこと。いくつもの誘いからcakesの連載だけ書かせていただくことに決めて、庭と畑と移住というテーマで毎週1回、できるだけ長く続けられるといいなと思っている。

みんなはいつどこでcakesのページを開いているのだろうか。私は、寝る前だったり仕事が終わってリビングのソファーでダラダラしている時だったり、リラックスの時間にcakesのページをめくる。もしかしたら通勤の満員電車の中かもしれないし、仕事の休憩中かもしれない。そんな時にパッと目に入る緑や大して意味のない文章が、心に安らぎを与えてくれたら最高だし、故郷を思い出してもらえたら嬉しい。

1976年東京生まれ、静岡育ち、職業はパンと日用品の店「わざわざ」のオーナー、二人の娘と夫と4人暮らし。趣味は庭と畑いじりと読書。大勢の人と話すのがとても苦手で友人は殆どいない。正直言うと人間よりも自然の方が好き。だから自然は、友達みたいなものだし一番安らぐ場所でもある。今日はそんな私がどうして長野に移住してきたのかということから書いてみたいと思う。


庭づくり10年目。自宅庭には木々が育ち木陰に風がそよぐ

2002年日韓W杯の時、夫の転勤に伴って東京から長野県小諸市に引っ越してきた。静岡の片田舎で育ったはずなのに、東京の暮らしに慣れきってしまっていた私たちは、駅前にマックがないこと、コンビニがないこと、車でないと移動できないこと、様々な不便ばかりが目に入り、東京へ帰ることを渇望していた。そして、一時の転勤の間の我慢と念じながら暮らしていたのだった。月に一度は鬱憤を晴らすようにして、東京へ出かけては長野に戻るということを繰り返していた。

そんな生活が1年続いたかどうかという時、段々と私たちの休日に出かける場所が変わっていった。温泉、直売所、宿場町…長野県のいたるところに散らばっている観光資源が目に入り、週末になるとショートトリップを楽しむようになったのだった。いつしか東京へ向かうことは殆どなくなっていった。野菜がおいしい。いっぱい畑があるけれど、もしかしたら自分でも作れるのかな? そんな会話が食卓に登り始める頃に、市民農園の募集を目にしたのだった。これ、応募してみようか?


スタッフと共に50坪程の畑で野菜作りを楽しんでいる

市民農園は移住者に人気があって空きが出ると公募があり、抽選ですぐに決まっていく。私たちは運良く当選して、約15坪の畑を手にしたのだった。すぐにホームセンターに行って、鍬やスコップ、長靴、麦わら帽子、見よう見まねで畑に必要そうなものを買い揃え、図書館で野菜の作り方の本を借りては読む。週末になれば二人で畑に朝5時、6時に出かけて行って午前中の涼しいうちに作業する。隣の畑の先輩方に色々なアドバイスを受けながら、疑心暗鬼で種を蒔く。これで本当に野菜ができるの? 結局、その年に初めて採れたほうれん草の味が今でも忘れられない。濃くて甘い今までに食べたことのないような味がした。

翌年は欲張って2区画を借りて30坪。夫婦二人分には十分なほどの野菜を作るようになって、その頃には東京に戻るのが嫌で嫌で仕方なくなっていた。どうやったらここで一生暮らすことができるのだろうか? 夫婦でそんなことばかり話すようになったのだった。

同じ頃、第一子の長女を妊娠し、いよいよ本格的に東京に帰りたくなくなった。一時期、本気で新規就農を検討して農業研修に出かけたりもしたが、少々現実的な私たちにはフィットしなかった。夫は地元の企業に転職活動を開始し、転勤のない生活を選ぶ。私は無事出産し、子どもを育てながら働く道として、できる範囲でパン屋を始めることに決め、縁もゆかりもない長野での永住をあっさり決めたのだった。

ということで、今回はここまで。次回も過去に遡り、パン屋を始めたところから現在へ。毎週水曜日、みなさんと会えることを楽しみに書き綴ります。

この連載について

わざわざ平田の思索日記

平田はる香

長野県東御市にある「パンと日用品の店 わざわざ」。山の上の長閑なこの場所に、平田はる香さんは2009年にひとりでお店を開きました。平田さんがnoteで公開した記事「山の上のパン屋に人が集まるわけ」が大いに反響を呼び、独自の経営スタイル...もっと読む

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コメント

marble145 一度だけ少しお会いしたことがある。連載が始まってたのか。読んでみよう。 5ヶ月前 replyretweetfavorite

tak1109 https://t.co/Pp7QbK2T0r 11ヶ月前 replyretweetfavorite

asaco0713 毎週の連載が楽しみだな~。 Webでもこういうことができるんだなぁ。 https://t.co/pHp65sCLNf 約1年前 replyretweetfavorite

imyst70s 「長野県のいたるところに散らばっている観光資源が目に入り、週末になるとショートトリップを楽しむようになったのだった。」 https://t.co/76NXpYXwak 約1年前 replyretweetfavorite