サイレンス・ヘルの危機

「受注数世界一の、殺しの会社を創りたい」
世界一売りづらい「殺し」を売るための会社作りに奮闘する女子大生、桐生七海の師匠であり、「最強のマーケティング技巧」を持つ西城が銃弾に倒れた。師匠を失った七海を取り巻くようにさらなる事件が起こり、そして物語は衝撃のラストへ――。今話題の書店経営者が初めて書く新しいマーケティング&エンタメ小説、第41回。

なぜ、これほどまでに緊張するのか、と桐生譲は自分の小ささに舌打ちしたい気分になった。

ただ、昔の弟子に会うだけだ。

そう自分自身に言い聞かせても、会う前からすでに全身から嫌な汗が吹き出していた。拭っても拭っても汗は一向に引かなかった。払拭できないのは緊張ではなく、あるいは、恐怖なのかもしれない。

桐生譲は、サイレンス・ヘルを雑司が谷の小さな公園に呼び出していた。公園の後ろには深い雑木林があった。形の上では、桐生が呼び出したことになったが、どうしてもサイレンス・ヘルに誘い出された感を拭えなかった。

一方のサイレンス・ヘルは動じることもなく、平然としていた。

「一つ、聞きたいんだが、イレーザー藤野楓を殺したのは、君なのか?」

サイレンス・ヘルは鼻で笑い、試すような嘲笑うかのような目で桐生譲を見た。

相変わらず、白いイヤフォンのコードを耳からぶら下げていて、生気がまるで感じられないほどに肌の色が白かった。陽の光の下ではなおさらのことだ。

サイレンス・ヘルの目は、本当にそれを自分に聞くのかと言っていた。

「目白台」は、イレーザーの実体を捉える直前まで迫っていた。

桐生譲は、大分別府市まで赴き、山村詩織によく似た女性と会っている。出産したばかりの女性というのは強い。そして、同時に弱い。

ただ桐生は、生まれたばかりの赤ん坊の頭を撫でながら、その女性に対して真実をすべて話したほうがいい、とだけ言った。すると、自分は町おこしコンサルタント岩井翔太の妻だと観念したように言った。そして、この子の父親も同じ街で生きていることを知ることになった。

自分たちに整形手術を施し、新しい人生を用意したのは、藤野楓だと証言した。イレーザーは死体を消しているのではなく人生を消しているのではないか。そんな大我総輔の懸念が現実になった瞬間だった。

「四人、ですね」

風を読むように、空中に視線を漂わせながら、まるで関係のないことのようにサイレンス・ヘルは言った。言われた瞬間、明らかに桐生は小さな恐怖を覚えた。そこまでなのかと思った。

いざというときに、サイレンス・ヘルを葬るために配置したスナイパーの数だった。

「あなたは僕を殺すために、ここに呼び出したんですか?」

いや、と桐生は首を横に振った。

「真実を知るためだ」

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殺し屋のマーケティング

三浦崇典

「受注数世界一の、殺しの会社を創りたいんです」 女子大生、桐生七海は本気だった。「営業」ができない、「広告」も打てない、「PR」なんてもってのほか、世界一売りづらい「殺し」をどう売るか――、そんな無理難題を「最強...もっと読む

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