イレーザー 〜人を消す女〜 2

「受注数世界一の、殺しの会社を創りたい」
世界一売りづらい「殺し」を売るための会社作りに奮闘する女子大生、桐生七海の師匠であり、「最強のマーケティング技巧」を持つ西城が銃弾に倒れた。師匠を失った七海を取り巻くようにさらなる事件が起こり、そして物語は衝撃のラストへ――。今話題の書店経営者が初めて書く新しいマーケティング&エンタメ小説、第38回。

—もう一つ、七海には聞きたいことがあった。

七海は、別れてもなお、背を丸めるようにして歩く涼の後ろ姿を見つめていた。振り返る気配はなかった。

あの事件以来、聞きたくとも聞けないこと、聞いてしまうと、クラウド・シンジケートが崩壊して、結果的に多くの救われるはずの命が救われなくなるかもしれないと思うことがあった。

そうなるくらいなら、自分が口を閉ざせばいいと思っていた。

けれども、もう限界だった。日向涼に対する疑念が、日に日に強くなっていった。

その疑念は、はじめは小さな黒い点の染みのようなものだったのかもしれない。しかし、日が経つにつれ、その黒い染みが徐々に大きくなり、もうどうしようもないくらいになっていた。

七海には涼に聞きたいことがあった。それはどうしても聞けないことだった。

あなたが先生を殺したの?

そう聞いてしまうと、世界が崩壊してしまうかもしれないと思った。

七海はあの事件の後、再び、あの田園に行った。そこで、射撃があったとされる場所に立ってみた。田園のあぜ道に白いバンが停まっていたとの証言があった。その上に伏せて、射撃されたという。ぬかるんでいたあぜ道にはタイヤの跡が残っていた。

遮るものが何一つない田園だった。逆に見晴らしがいい場所だった。

距離およそ二〇〇〇メートル。

その距離から標的を確実に狙えるのは、世界中を探しても五人といない。そして、目の前にその中の一人がいる

「涼、あなたが先生を殺したの?」

そう実際に言ってみると、声がどうしようもなく震えた。鼓動が思った以上に高鳴った。

けれども、もう涼の後ろ姿ははるか遠くに離れて、聞こえるはずがなかった。遠くからでも両耳からぶら下げた白いイヤフォンが、やけに鮮明に見えた。その姿勢の悪い背中は、もう二度と七海を振り返ることはなかった。

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殺し屋のマーケティング

三浦崇典

「受注数世界一の、殺しの会社を創りたいんです」 女子大生、桐生七海は本気だった。「営業」ができない、「広告」も打てない、「PR」なんてもってのほか、世界一売りづらい「殺し」をどう売るか――、そんな無理難題を「最強...もっと読む

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