一昨年、母が約1ヶ月入院した。なんやかんやと病院に通ううち、同室の方や看護師さんとも面識ができてくる。
手術後、母は6人部屋に身を置きリハビリに励んでいた。ご高齢とはいえ女性が数人集まるとかしましいもので、
「Nさん(母)のリハビリの先生、××先生だって。イケメンなのよね。ずるいわ」
だの、
「Nさん、××先生が相手だとハリがでるわよね。私は△△先生だから、治るものも治らない」
だの、冷やかし合戦が始まる。
へ~、××先生ってかっこいいんだ、なんて私のほうがホクホクしながらリハビリに付き合ってみれば、××先生はどこにでもいる朴訥とした若者で、特にイケメンでもなかった。
老眼マジックだろうか、あるいは病院という隔離された環境が審美眼を狂わせたのか定かではないが、個人的に医者は特にイケメンでなくてもいいと思う。
女性はいくつになっても乙女だけれど
これまで、私は数人のイケメン医とタッグを組んできた。大腸内視鏡検査を数回、あとは尿道カテーテルをはめ込まれたり、「これはプレイだから!」と思い込まなければやっていられない行為だ。いい年したおばさんが何を乙女ぶっているのだ、と嘲笑うなかれ。女性はいくつになっても乙女。恥じらいだけは年を取らないのである。いや、恥じらいだけは年を取らせてはいけないのである。
私が初めてイケメン医を否定したのは、中学2年生の時だ。虫歯の治療で通った歯科医がすこぶる若くてイケメンで、診察台に座ってすぐにときめいたのだが、次の瞬間、
「お口を大きくあけて」
と言われ、ときめき絶好調だった私は躊躇した。
「口を大きくあけて。お・お・き・く」
とイケメン歯科医にドアップで言われ(当時は顔にタオルをかぶせないのが普通だった)、大口をあけたブス顔を凝視されるという辱めを受けた。
今でこそ、句読点入りの「お・お・き・く」を「ス・キ・ダ・ヨ」みたいに勝手に変換して妄想する気力も体力もあるのだが、多感だった当時はそんな余裕などない。診察を終えて無駄にぐったりし、医者、特に歯科医はおじさんに限る、と覚った。余談だが歯科医は、どんな美人も大口あければ皆同じ、と落胆しないのだろうか。オンとオフで美意識のスイッチが切り替わるのだろうか。
救急車で運ばれた病院で、若いイケメン医に……
私は医療系の資格を3種類ほど保持しているので(全部3級というのがなんとも中途半端)、医療の裏側をほんの少しだが知っている。現場の大変さも、ほんの少しは理解しているつもりだ。医師や看護師の激務や多忙さには頭が下がるし、数年前に私が救急車で運び込まれた某病院はまるで野戦病院だった。年末というせいもあっただろうが、流れ作業も甚だしい。
原因不明の腹痛で救急搬送された私は(自分で救急車を呼びました)、身体をくの字に曲げながらも医者の品定めは怠らない。私を担当したのは若いイケメン医で、
「生理中ですか。じゃあ尿検査無理なんでカテーテルで」
と涼しい顔で言う。
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