イラスト:堀越ジェシーありさ
こうして二回目に来た日に、私はマニュアルに沿ってたくさんのことを教わった。それからしばらくの間、毎日現実と夢工場を往復し、夢工場の様々な仕組みや役割を教えてもらった。
夢から夢工場にやって来た人が最初に入る部屋が「ロビー」と呼ばれる、あのベッドがある部屋だ。そこから、その対面にある扉を開くと、「ファクトリー」と呼ばれる、夢の要素が作られ出荷される大きな部屋がある。
ロビーには夢と繋がっている扉側から見て右側に、もう一つ扉がついており、ゆるい左向きのカーブを描いた長い廊下に繋がっている。廊下の右手には無数の扉がついており、そのほとんどが、夢工場から夢へと繋がる出口である。
もし誰かが夢工場からやって来て、この廊下へ走って逃げたとしても、いずれかの出口の扉を開くと、そこで目が覚めてしまうだろう。きっとその人の中では、ただの奇妙な夢を見たという印象しか残らない。ある種夢工場の防衛装置とも言える扉だ。
廊下にある扉のうちの一つは、「モニター」と呼ばれる部屋に繋がっている。夢を監視するための部屋で、管理人は長い時間をここに滞在し、夢を監視する。この部屋は、それぞれの管理人に合わせてその形状を変えると言われている、不思議な部屋だ。なのでここは定員一人という決まりになっている。
私にとっての「モニター」は、客席のない小さな映画館のような空間だった。前方に夢を映すための大きな画面が一つ取りつけられていて、その手前に机と椅子があり、管理人である私はここに座る。
画面をつけると、今現在見られている全ての明晰夢が細かく映し出される。手元の机の上に、その画面が縮小されたモニターがあり、詳しく監視したい夢の画にをタッチする。すると、その夢だけが大きな画面に映し出されるのだ。もちろん選んだ夢は、夢の中の音声まで聞こえるようになっている。
こうした操作の方法がスマホに似ている点で、私の「モニター」はとても現代的である。私が使いやすいように、夢工場がうまく合わせてくれているのだろう。
ちなみにおじさんにとっての「モニター」は、靴を脱いで入る和室になっているそうだ。画面に映る夢を変える場合も、タッチパネルではなくスイッチで操作する仕組みと言っていた。こんなふうに大昔から、様々な形の「モニター」が管理人のために設けられてきたのだろう。
マニュアルの通り、私は夢に不具合が起こっていないか、そして、扉からやって来る訪問者がいないかを確認する。不具合が起こっている夢には、そうだとわかるサインが画面に映し出される。ごく稀にしかないことだが、それを私たちはノイズと呼んでいる。そのノイズを解決するのも管理人の仕事だ。
しばらくの間、私は「モニター」で夢の監視を行い、夢工場の仕事に慣れるようおじさんに言われていた。しばらく監視をしていると、色んな夢があることに改めて気づかされる。
夢だと気づいて、早く目を覚まそうと自分の頬を叩く人。意味もなく走り回る人。連日同じ人が画面に現れることは滅多にないが、たまに何度も同じ悲しい夢を見て、涙を流している人もいた。