夢の管理人になるための実習

【管理人の夢⑭】
マニュアルを読んだあと、おじさんに、夢工場について様々な仕組みを教えてもらった。そしていよいよ実習――。本格的な夢の管理人の仕事が始まる……
<WEAVERの河邊徹がドラムスティックからペンに持ち替えて描いた作家デビュー作!>

イラスト:堀越ジェシーありさ



 こうして二回目に来た日に、私はマニュアルに沿ってたくさんのことを教わった。それからしばらくの間、毎日現実と夢工場を往復し、夢工場の様々な仕組みや役割を教えてもらった。

 夢から夢工場にやって来た人が最初に入る部屋が「ロビー」と呼ばれる、あのベッドがある部屋だ。そこから、その対面にある扉を開くと、「ファクトリー」と呼ばれる、夢の要素が作られ出荷される大きな部屋がある。

 ロビーには夢と繋がっている扉側から見て右側に、もう一つ扉がついており、ゆるい左向きのカーブを描いた長い廊下に繋がっている。廊下の右手には無数の扉がついており、そのほとんどが、夢工場から夢へと繋がる出口である。

 もし誰かが夢工場からやって来て、この廊下へ走って逃げたとしても、いずれかの出口の扉を開くと、そこで目が覚めてしまうだろう。きっとその人の中では、ただの奇妙な夢を見たという印象しか残らない。ある種夢工場の防衛装置とも言える扉だ。

 廊下にある扉のうちの一つは、「モニター」と呼ばれる部屋に繋がっている。夢を監視するための部屋で、管理人は長い時間をここに滞在し、夢を監視する。この部屋は、それぞれの管理人に合わせてその形状を変えると言われている、不思議な部屋だ。なのでここは定員一人という決まりになっている。

 私にとっての「モニター」は、客席のない小さな映画館のような空間だった。前方に夢を映すための大きな画面が一つ取りつけられていて、その手前に机と椅子があり、管理人である私はここに座る。

 画面をつけると、今現在見られている全ての明晰夢が細かく映し出される。手元の机の上に、その画面が縮小されたモニターがあり、詳しく監視したい夢の画にをタッチする。すると、その夢だけが大きな画面に映し出されるのだ。もちろん選んだ夢は、夢の中の音声まで聞こえるようになっている。

 こうした操作の方法がスマホに似ている点で、私の「モニター」はとても現代的である。私が使いやすいように、夢工場がうまく合わせてくれているのだろう。

 ちなみにおじさんにとっての「モニター」は、靴を脱いで入る和室になっているそうだ。画面に映る夢を変える場合も、タッチパネルではなくスイッチで操作する仕組みと言っていた。こんなふうに大昔から、様々な形の「モニター」が管理人のために設けられてきたのだろう。

 マニュアルの通り、私は夢に不具合が起こっていないか、そして、扉からやって来る訪問者がいないかを確認する。不具合が起こっている夢には、そうだとわかるサインが画面に映し出される。ごく稀にしかないことだが、それを私たちはノイズと呼んでいる。そのノイズを解決するのも管理人の仕事だ。

 しばらくの間、私は「モニター」で夢の監視を行い、夢工場の仕事に慣れるようおじさんに言われていた。しばらく監視をしていると、色んな夢があることに改めて気づかされる。
 夢だと気づいて、早く目を覚まそうと自分の頬を叩く人。意味もなく走り回る人。連日同じ人が画面に現れることは滅多にないが、たまに何度も同じ悲しい夢を見て、涙を流している人もいた。

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夢工場ラムレス

河邉徹

WEAVERのドラマー・河邊徹の作家デビュー作。バンドで作詞を担当してきた河邊の 〝言葉の世界〟をドラムスティックからペンに持ち替え、描いた「夢」をテーマにした長編作。 ...もっと読む

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