イラスト:堀越ジェシーありさ
「文字通り、浮かんでみてください。その時に手や足を使ってはいけません」
「手足を使っても、浮かぶなんてできないでしょ」
「忘れないでください、そこは夢の中ですよ。できないことができるはずです」
「……わかったわ」
私は地面を見つめた。そうだ、これは夢の中だ。できないことができる。まずは自分の体がふわりと浮かんでいることを想像した。無重力、無重力。それから目を閉じて思い描く。宇宙飛行士が浮かんでる映像、この前テレビでやってた。あんな感じでしょ。
……しかしそうイメージしても、なかなか体は浮かばない。
「浮かばないですね」
「……なんでかな」
「心のどこかで、夢の力を信じていないからですよ。ここは夢です。現実にできないことができると、心を騙してください」
心を騙せとは無茶を言う。今まで二十年以上空を飛べない暮らしをして来たのに、今さら空を飛べると言い聞かせるなんて難しい。
「漫画のキャラを想像してもいいですよ」
そう言われ、私は少年漫画の主人公を思い出した。彼らはいつでも自由自在に空を飛んでいた。あんな感じか。そうだ、空は飛べる、飛べる。
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