「マインドフルネス、瞑想というと、ヨガや座禅といったものを思い浮かべるかもしれませんが、脳科学に基づく実践法なのです」
「マインドフルネス」。最近よく耳にするものの、実際どういったものなのかを知らない私に、このように教えてくれたのは、企業・官庁等の組織に向けてマインドフルネスを用いたリーダーシップ開発、人材開発、組織開発に取り組む、荻野淳也氏だ。
「マインドフルネス」とは、今に集中した状態を指し、その状態を鍛錬する手法が「マインドフルネス瞑想」という。「マインドフルネス」はGoogleなどの著名企業や、海外のエグゼクティブの間では、かなり以前からとり入れられてきた実践法である。
近頃は、特にビジネスパーソンの間で日本でも人気を集めている。荻野氏によれば、マインドフルネスとは、「今にしっかりと注意を向けた状態」である。
その状態を鍛えるための実践法がマインドフルネス瞑想だ。これは「セルフアウェアネス(自己認識力)を高め、「感情のコントロールなどをはじめとした自己管理ができるようになる」効果が期待できるという。
ちなみに、あのジャック・ウェルチも、効果的なリーダーシップを発揮する上で最も必要な資質として、この「セルフアウェアネス」を挙げている。仕事のパフォーマンス向上を、自己と深く向き合うプロセスを通じてかなえていくことが、マインドフルネスの効果の一つと言えるだろう。
では、なぜマインドフルネスによって、パフォーマンス向上が期待できるのだろうか。その鍵は、「副交感神経が優位になること」だと荻野氏は説明する。
「現代人は緊張や不安をたくさん抱えている方が多く、生命を維持するのに重要な体の機能をコントロールする機能をもつ、自律神経に支障をきたすことが多くなっています。
つまり、過度に活動しているとき、緊張しているとき、ストレスを感じているときは、いろいろなものに追われて頭の中がとっ散らかっている状態になりがちで、交感神経が優位になっています。慢性的にストレス状態が続くと、さまざまな病気を引き起こす原因にもなりうると言われています」
不安や恐怖を感じて扁桃体が活性化すると、視床下部に指令が行く。すると、自律神経が興奮して心拍数が増え、血圧が上昇する上、ストレスホルモンと呼ばれるコルチゾールなどが副腎から分泌され、それが血流に乗って全身の臓器や自律神経に影響を与える。
また、これらは免疫細胞や脳の海馬にも悪影響を与えるというのだから、ストレス管理は極めて重要なのである。
「一つひとつは小さくても、多くのストレスが重なると、キラーストレスともいうべき危険な状態に陥ります。すると血管が破壊され、脳卒中や心筋梗塞などの引き金にもなるのです」
なお、慢性的にストレスにさらされると、扁桃体が大きくなり、小さなストレスにも過敏に反応するようになるという。
・マインドフルで思いやりに満ちた組織作り——副交感神経を優位にして、コンパッションマネジメント
こうした中で、ストレス社会に生きる現代人にこそ、マインドフルネスが必要なのだという。確かに、常に仕事に追われていて、「キラーストレス状態寸前」という方も多いのではなかろうか。
我々の自律神経は、「交感神経」と「副交感神経」のバランスで成り立っているが、これらの兆候はもしかすると、交感神経が優位になりすぎているサインかもしれない。ではリラックスしている状態のほうが、集中力や生産性が上がるということなのだろうか。
この疑問に対して荻野氏は、「もちろん、自律神経はバランスが重要ですから、交感神経にも働いてもらわねばなりません。ただ現代人は、日頃から交感神経が優位になりすぎているから、あえて副交感神経を優位にする時間をもつことが、パフォーマンス向上につながるのです」と説明する。
交感神経、副交感神経は、双方のバランスをとることが大切なのだ。さらに、マインドフルネスによって「コンパッション・マネジメント」が可能になるという。直訳すれば「思いやりによるマネジメント」だが、どういうことだろう。
「マインドフルネスを実践して副交感神経が優位になると、精神がリラックスします。すると、頭と心がクリアになって集中力が高まったり、人への思いやりが生まれたりする。こうした状態でマネジメントを行うことを指してコンパッション・マネジメントと呼びます。
つまり、他者を思いやることが組織の信頼醸成になるという考え方ですね」
現在、このコンパッション・マネジメントは、新しい時代のマネジメントとして、あのLinkedlnのカリスマ経営者である、ジェフ・ウェイナーが提唱するなど、世界の有名企業のエグゼクティブたちの間で、注目を集めているという。
AI時代が到来した昨今、こうした「人間らしい」副交感神経優位の組織作りが重要性を増しているのだろう。EQを高めれば、AI時代も食べていける?さらに荻野氏は、今後はEQ(心の知能指数)を高めることが重要だとも話す。
「今後、人工知能が飛躍的に発達して、単純作業のような仕事は人のものではなくなっていくでしょう。となると今後、人間には、人工知能にはできないスキルが必要になってきます。それは、たとえば相手の感情を思いやったりすること。すなわちEQ的なスキルなのです」
EQには、「自己認識力」「自己統制力」「モチベーション」「共感力」「ソーシャルスキル」の5つの要素があり、これらはマインドフルネスの実践によって高めることができるという。これらが著しく欠落していらっしゃる方は、ドキッとされたのではなかろうか。
それでは、実際にどのように行ったらいいのだろうか。最強の「マインドフルネス」の極意を、具体的に一緒に見ていこう。
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