読みたい人、書きたい人のミステリ超入門

第9回 『ふうん』な伏線じゃ驚けない(1)

どんなに美しい推理であっても、手掛かりがまったくなければ論理として組み上がらないし、解決のときに「実は」と証拠を出されたところで、後出しジャンケンとしか思われない――。
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 魅力的な謎を提示し、犯人や謎解きの方向性を定めたら、今度はそれらが上手く機能するように、伏線を張る必要がある。どんなに美しい推理であっても、手掛かりがまったくなければ論理として組み上がらないし、解決のときに「実は」と証拠を出されたところで、後出しジャンケンとしか思われない。
 理想的な伏線とは、物語の流れの中で自然と記憶に植え付けられ、印象には残るけれど、わざとらしくないものだ。
 美しい伏線を張るのは難しいが、綺麗に決まればこんなに格好いいものはなく、間違いなくミステリにおける見せ場の一つである。
 では、どんな伏線が上手い伏線なのか、順に考えていきたい。

◆伏線は、ビジュアル的に印象に残るものでなければならない。
映像として頭の中に残る必要がある、ということだ。つまらなければ読み飛ばされるし、重箱の隅に細かく伏線を張っても、覚えていてもらえず、スルーされる可能性が高い。
 例えば、本棚の上から二段目に分厚い箱入りの本が差さっていて、それに大きな意味があるとする。開くと、ページの部分が削られて、中に麻薬が隠してあるとしよう。これを伏線として提示する場合、どうするか。
 部屋の主が本好きという設定にし、本棚に並んでいる書名を羅列する、という方法がある。こんなふうだ。

──ミステリ好きらしく、アガサ・クリスティーの赤い背表紙がずらりと並んでいた。『オリエント急行の殺人』『三幕の殺人』『アクロイド殺し』『スリーピング・マーダー』『象は忘れない』『魔術の殺人』『メタマジック・ゲーム』『ポアロのクリスマス』『カーテン』etc.──。

 という描写では、「ああ、クリスティーの本があるのね」と、スルーされるのがオチだ。この中で、クリスティーの著作でないのは、『メタマジック・ゲーム』で、かつ物凄く分厚くてスリーブ箱に入っていたりするのだけれど、そんなことは知らなければ分からない。
 これをもって、趣味とは無関係の分厚い本があった、という伏線にするのはちょっと、いや、かなり厳しい。伏線だと主張するのは自由だが、そう認識してくれる読者は限りなく零に近いだろうし、何より格好悪い。ほとんどの人は、作品名は単なる羅列だと思って読み飛ばすだろうし、そもそも『メタマジック・ゲーム』がどんな本か知らなければ伏線にならない。
 ならば、どうするか。

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新潮社
2018-05-18

この連載について

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新潮社yom yom編集部 /新井久幸

ミステリ作家志望者、必読! 「新潮ミステリー倶楽部賞」「ホラーサスペンス大賞」「新潮ミステリー大賞」など、新潮社で数々の新人賞の選考に携わってきたベテラン編集長が考えるミステリの読み方・書き方の<お約束>とは――。電子書籍文芸誌「...もっと読む

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marekingu ミステリ作家志望者、必読! 新潮社編集長の「読み方」と「書き方」 https://t.co/2cFH0LUFEE #スマートニュース 7ヶ月前 replyretweetfavorite