ドラえもんの始まりとオバQの復活 ~『ドラえもん』の静かな始まり③~

2010年代に入ってウルトラシリーズ、仮面ライダー、ヤマト、ガンダム、あるいは「ベルばら」「ポーの一族」等が次々と40、50周年を迎えている。これらは単に昔のものとしてあるだけでなく、現役のコンテンツとして新作が発表され、映像化、舞台化されている。逆算すれば分かるが、これらの大半は1970年代に始まった。1960年に生まれ、アニメ、特撮ものを最初期からTVで見ていた中川右介(作家、編集者)が「リアルタイムの記憶を基にして目撃譚」として描くサブカル勃興史。

「記憶をたどりながら書きますが、公にするからには、記憶にだけ頼り、間違ったことを書いてはいかないので、改めて調べ事実確認をして書きます。歴史家的視点と当時の少年視聴者・読者としての記憶とを融合させ「読者・視聴者としてサブカル勃興期を体験した者が書く歴史」を提示したいと思います(筆者)。


一九六〇年生まれの僕が学年誌で読んだ藤子作品は、一年生の一九六七年四月号から二年生の六八年八月号までが『パーマン』で、九月号から『ウメ星デンカ』が三年生の二月号まで続いて、三年生の一月号からは『ドラえもん』も始まった。一月・二月号は二作、藤子作品が載っていた。確かな記憶はないが、資料で確認した。

●藤子不二雄の不遇時代

これまで学年誌に連載された藤子作品—『オバケのQ太郎』『パーマン』『ウメ星デンカ』はみな「少年サンデー」でも連載され、テレビアニメとも連動していたが、『ドラえもん』は、そうではない。一九六九年の藤子不二雄はもう「少年サンデー」からはお呼びがかからなくなっていたのだ。

『オバケのQ太郎』の大ヒットは過去の話で、直近の、自信のあった『21エモン』『モジャ公』というSF色の強い作品はヒットせず、どうにかアニメにもなった『ウメ星デンカ』も大ヒットしたとは言えない。

『オバケのQ太郎』の大ヒットは、藤子作品の「日常のなかに非日常が登場することで発生するドタバタ」を描くという基本構造が支持されたと分析された。だが、同じ「日常の中の非日常」である異星人からもらった道具で変身する『パーマン』も、別の星の国王一家が日本の普通の家庭に居候する『ウメ星デンカ』もそれほどヒットしなかった。

 もう「日常の中の非日常」は飽きられているのではないか。一方、二一世紀を舞台にした『21エモン』も、普通の少年と異星人とロボットが宇宙旅行をする『モジャ公』も、SF色が強すぎたのかヒットしなかった。

「少年サンデー」からは『ウメ星デンカ』の次の連載の話はなく、講談社の「ぼくらマガジン」でも結果を出せなかった藤子にとっては、小学館の学年誌だけが残された活躍の場だった。こんな状況で新連載を始めるのだから、普通ならば、少なくとも、SF的設定は懲りて、他の道を模索するだろう。

 しかし藤子不二雄は、変身もの、未来もの、異星人ものに続いて、時間旅行、ロボット、四次元といったもっと高度なSFテイストを盛り込んだ、それでいて落語的な生活ギャグマンガを小学生たちに問うたのである。どうだ、これが分かるか、と。

 かくして、未来の世界から来たロボットが四次元空間を利用した道具を駆使する本格SFの骨格をもちつつ、生活ギャグでもあるという『ドラえもん』が誕生した。

●最初期の『ドラえもん』

『ドラえもん』が七〇年一月号でスタートしたのは、「小学一年生」「小学二年生」「小学三年生」「小学四年生」、そして「幼稚園」「よいこ」の六誌だ。

 藤子不二雄は学年誌全誌に同時並行して『ドラえもん』を描き続けるが、同じ作品を複数の雑誌に載せているのではなく(最後のほうは再録もある)、毎月、何種類もの話を学年ごとに描き分けていた。

 一年生のためのものと六年生のためのものとは、キャラクターの身長も描き分けられているし、ストーリーも一年生向けのは単純だが、六年生向けのだと複雑になっている。一回あたりのページ数も学年が上がるにつれて増える。てんとう虫コミックス版や「月刊コロコロコミック」に収録されるのは、「小学四年生」「小学五年生」「小学六年生」のために描かれたものが大半を占める。

 したがって、『ドラえもん』の第一話は六種類あり、てんとう虫コミックス版『ドラえもん』第一巻に収録された最初の「未来の国からはるばると」は「小学四年生」七〇年一月号に掲載されたもので、僕が同月の「小学三年生」で読んだものとは異なる。

 各学年の第一回はどれも、ドラえもんがなぜ未来からのび太のもとへ来たかが読者に分かるように説明されるが、ストーリーもひみつ道具も異なるのだ。「四年生」の第一話には「ヘリトンボ」(タケコプターのことを最初はこう呼んだ)、「三年生」の第一話には「透けて見えるメガネ」が出てくる。

 こうして『ドラえもん』は始まった。一月号は一二月上旬に発売で、東京の学校はまだ冬休み前だ。「小学三年生」が発売されたその翌日、学校では新連載の『ドラえもん』の話題でもちきりだった—というのは真っ赤なウソだ。

 クラスメートと『ドラえもん』について語った記憶はまったくない。五〇年近く前の話なので忘れている可能性もあるが、当時、クラスでみんなで貸し借りして読んでいたのは『巨人の星』であり、『アタックNo.1』『サインはV!』といったスポ根ものだった。

 そもそも三年生で学年誌を読んでいた子はどれくらいいたのだろう。『ドラえもん』に限らず、学年誌が友だちとの会話で話題になった記憶はない。

 小三くらいになると、男子は「少年サンデー」「少年マガジン」を読むようになっているし、創刊されたばかりの「少年ジャンプ」も人気が出ていた。女子も少女マンガ誌を読んでいたので、学年誌の購読率は学年が上がるにつれて下がる。

●『オバケのQ太郎』復活

さて—『ドラえもん』は七〇年の連載開始から三年間は「五年生」「六年生」には連載されなかった。毎年、「四年生」三月号が最終回だったのだ。したがって、僕の一年上、一九五九年度生まれは七〇年一月号から三月号までの三回しか『ドラえもん』を読んでいない。

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