イラスト:堀越ジェシーありさ
「そのはずなんですが、どうも、機械で数えた結果、こういう数字になってまして……」
私は時間をかけてでも、目の前で数えておくべきだったかもしれないと思った。マダムはかなり自信があったらしい。
「私は家で何度も数えてきたから間違ってないはずなのよ。あなたを疑ったりはしないけど、裏で落としたとか、機械に詰まってるとかはないの?」
マダムの指輪が窓口の机に当たって、何度もカチカチ音を立てる。
「確認いたしますので、少々お待ちください」
実は過去に、出納機から一度に大量の五百円を出した際に、一枚足りなかったケースがあったのだ。何度数えても合わず、機械の中を開けると、一枚だけ別のところに詰まっていたことがあった。そんな風に、機械のミスもゼロであるとは言い切れない。
とりあえず、私は上司の崎田と支店長に状況を説明し、今から確認して来ます、と報告を入れておいた。支店長はすぐにマダムのところに行って、頭を下げながら何か話している。サポートしてくれているようだ。
私は裏に戻って、お金をどこかに落としていないか、そして出納機に不備はなかったかを確認する。やはり、どこにもない。
そして思ったのが金額の差である。ちょうど九万円足りないのは、おそらく、千円札十枚と一万円札十枚の束を間違えて数えていた時に起きた数字の誤差ではないだろうか。それでも、まさか顧客に「間違えてたんじゃないですか?」などと言えるわけもなく、もはやどうしようもない。私は窓口に戻ってきた。
「すみません、機械も確認したのですが、やはりこの金額で間違いないようなんですが……」
「でも、私数えて来たから間違いないはずなの。もう一つの銀行のATMが間違ってたのかしらね……。そっちにも聞いてくるから、もう一度確かめてもらえる?」
「はい、こちらも再度確認いたします」
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