2月某日
「樋口先生、育児日記いつも楽しく拝読しています。
しかしいささかながら多分に盛りすぎではないでしょうか。奥様の三輪記子さんはテレビで拝見する限り、バッシングされても当然と思える事件の容疑者に対しても、断定口調は避け、常に言葉を選んで発言されています。
またツイッターでも節度を保ち、感情的に他者を攻撃するツイートを一度も見たことがありません。エッセイを面白くしようとするお気持ちはわかりますが、さすがに演出過多だと思われます」
北海道の匿名希望・白濁の恋人たちさん、いつもありがとう。
しかし何度も書いているがこの育児日記、ただの一度も誇張・嘘・大袈裟・紛らわしい表現は一切していません。
今回は三輪記子とやりとりしたメールのスク写を一部交えながらお送りします。
短編小説に挑んでみたが全然ダメなものしか書けなかった日のこと。深く落ち込んだ。
一度は引退宣言をしたけど、育児家事の生活で執筆から遠ざかってみて、やっぱり作家でいたいと強く思った。
夜、仕事のため東京に泊まりのふさこからFaceTimeがかかってきた。正直な胸の内を吐露した。
「生きていてつらい。以前のように自由に、気ままに執筆できる環境が欲しい」
ふさこが見る見るうちに鬼の形相に変貌する。
いくら謝まっても許されない。
FaceTimeを切った後も、寸暇を惜しむように罵倒メールが送られてくる。
俺「気まま、ではないよ。小説に執筆できる環境と言いたいだけ。
人の出入りが激しいテレビ局に連れて行ったら、かずが風邪をひくリスクが高まる。前にふさが風邪もらってきたこと忘れたの?
ふさが生放送に出ている間、誰にかずの面倒を見てもらうの? AD? メイクの人? マネージャー? その人たちは保育士の資格でも持っているの?」
記子「保育園だってリスクはあるよ。一生閉じこめるわけにはいかないんだから仕方ないよ。
いずれにしてもかずの送り迎えや家事が負担になっているんだったら、ふさとしてはたけちゃんの負担になることは本意ではないので、どうぞおひとりで暮らして下さい。
どうぞどうぞ」
俺「たまの愚痴も許さないのか、、」
記子「愚痴っていいよ。
だから愚痴に対する回答を示してやるんだよ。
これまでお疲れ様でした。
ふさも愚痴るけど、たけちゃんやかずふみがいるせいで辛いとか、そういうことは言ったことがない。
自分がいかにひどいことを言ってるか考えて下さい」
俺「ごめんなさい」
みんな読んでてイヤーな気持ちになってるでしょ? 実生活では俺ひとりでこれ受けてんのよ? しかもまだまだ序盤だよ。
記子「たけちゃんが言いたいことは「ふさの代わりに育児や家事をしているので小説が書けません」です。
だから「育児や家事をしないでよいです。すいませんでした。」と申し上げているのです。
そこまで言うなら別居でも離婚でもしてやるよって」
俺「どうしてそこまで追い込む?」
記子「自分で言い出したことでしょう。
書けないのは今の生活のせいだ、って言うから、じゃあ今の生活を変えようよ、って言ってるの。ふさ、「今の生活が悪い」なんていう愚痴を言ったことがあるだろうか? ないよ。
こんなに度々「今の生活のせいだ」って言うのなら、今の生活を変えればいいじゃないって言ってるの。
かずの面倒を見てもらって感謝しているけど、心の底で「今の生活のせいで書けない」って思っているんだな、って。
申し訳ない気持ちでいっぱいです」
俺「言い過ぎましたすいません」
記子「いや、ずっと思っていたことを言ってくれてありがとう。
ほんとうに、決心できました。
ふさも自分の仕事が大切だから、たけちゃんにも仕事をしてほしいです。
仕事できないのは辛いから分かるよ。
だからたけちゃんが家を出て下さい」
俺「あたま冷やせ」
記子「2人目は無理なのがよく分かったよ。
たけちゃんの収入もあてにしないで生きていくためには、ふさとかずふみとで暮らしていくよ。
それならかずふみを私立の学校に行かせることもできると思う。
とにかく、家を出て行って下さい」
俺「気が強すぎる」
記子「お互いにすっきりすると思うよ。
かずふみの勉強もふさが見てあげるので(もう少し大きくなってからだけど)ご心配なく。
どうぞ、良い作品を書いてかずふみに財産を残してあげて下さい」
俺「こんな追い込む母親とふたりきりになったらかずが可愛そう」
記子「仕事してるからずっと追い込んだりしないから。
追い込んでるヒマないし。
それより「おまえの面倒見てるから仕事ができないだろ」って父親のほうが問題だろ」
こんな感じで不毛なメールのやり取りは明け方まで続いた。これからが本番だ、ほれ。
記子「寝れないわ。
とにかく出てってくれ。
お金も渡すから」
俺「いらない。とにかく寝ろ。
冷静になれ。客観性を持て。あしたお母さんに旨を話してみろ」
記子「どのお母さんだよ」
俺「T子さん(ふさこの母)に決まってるだろ」
記子「うちのT子に言っても何の役にも立たないだろ、アホか。
そもそも離婚すると思ってるんだし、離婚したら喜ぶぐらいだよ。
今まで婚約破棄しても喜んできたんだから」
俺「いまはもうかずがいるんだから」
記子「関係ないよ。たけちゃんに気兼ねせずにかずに会いに行ける、くらいのもんだよ。
いつも何かあったらそれ言うけど、何の効力もないどころか、私をかなりイラつかせているだけだから」
俺「これまで、ずっと仲良く過ごそうねって言ってたじゃないか」
記子「それは、ふさやかずふみのせいで書けない、なんて言ってないときの話です」
俺「悪く受け取りすぎ。ささいなひとことを許さなすぎ」
記子「だから、書いて下さい。 こちらからお願いするから、書いて下さい。
そのために家事育児が負担なら、一人暮らしして下さい。
どうかお願いです。 家を出て行って下さい。
まずはビジネスホテルでいいから」
俺「愛しているとか言っていたかと思うと、どうしてこう極端なんだろ」
記子「いや、愛してるけど出てって。
あなたの生活(執筆)の邪魔をしてすいません」
俺「お望み通り、今から仕事をするよ」
記子「そうやって夜中に仕事をするからダメなのに、やっぱり何も変えようとしてない。
子どもは基本的に早寝早起きなんだから(少なくとも今後17年くらいは)、かずがいない間に寝るなんて時間の使い方としてアホすぎると思うよ。
たけちゃんが夜中にゴソゴソしてるとき、ふさだって起きるときがあるんだよ?
どう考えても、ふさもかずふみもいないときが一番集中できる時間のはずなのに、その時間は主に寝ているんでしょ?
かずふみの生育にも悪影響だと思うし、ふさにとってもたけちゃんがいないほうが気をつかわずにすむし、良いと思うよ?
たけちゃんの子どもを産むことができて幸せでした。
どうもありがとうございます」
これってDVじゃないの? 付き合うのも限界。
スマホを切り、仕事に取りかかろうとするが集中できない。あたまがおかしくなりそう。
まんじりともせず、ちらっとスマホを見ると、短時間にショートメールが23件、着信が23件!
いいかげん堂々巡りで切りがないので、以下かいつまんでメールを一部公開。
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