前回、楽天カードを例にして、ITと金融が結びついたフィンテックビジネスについて説明しました。今回は、フィンテックの一種で、最近注目のビジネスモデル「SaaS」(Software as a Service)について解説します。
SaaSは、ソフトウェアをパッケージで販売するのではなく、インターネットを経由して「月額いくら」など利用期間に応じて使用料金を徴収するビジネスモデルのことです。 たとえば、マイクロソフトのサービスである「Office 365」などがそうです。以前は「WordやExcelなどのパッケージを2万円なり3万円を払って使う」というのが一般的でしたが、マイクロソフトは今、「1万円を払って、最新版を1年間だけ使える権利を買う」というビジネスへとシフトしています。こうした定額のサブスクリプション型により売上をあげるビジネスモデルがSaaSです。
SaaSがもたらした2つの変革
SaaSはビジネスにどんな変化をもたらしたのでしょうか。大きく2つあります。
ひとつは「製品開発サイクル」の変化です。SaaS以前のウィンドウズは2年、3年と費やして開発を続けて発売日へ向けてバグを取りながら仕上げていきました。 それがSaaSでは毎月、アップデートを行なうことができます。「出して終わり」ではなく、発売日にとらわれず常に改善可能となったわけです。
もうひとつはビジネス的な変化です。パッケージを販売する方法だと、売上の方程式は「売れた数×単価」です。「売ったら終わり」でそれ以降、売上は入ってきません。新しいバージョンを出した年の売上は増えますが、そうでない年は下がるといったように、売上のブレが大きくなります。 また、数年かけて新しいバージョンを開発しても、「以前のバージョンでいいか」と考える人がいて売上が増えるとはかぎりません。それが「月額いくら」というサブスクリプション型だと、ユーザーが気に入って使ってくれているかぎりは永続的に売上が入ってきます。売上のブレを小さくできるのがSaaSの特徴です。
一方でSaaSにはデメリットもあります。パッケージ販売であれば、新バージョンを発売すれば一気に売上が増えて開発コストを吸収できますが、SaaSだとそうはいきません。パッケージなら発売翌月に2万円回収できるところが月1000円のサブスクリプションだと回収までに20ヵ月かかることになります。
SaaSでは開発コストやユーザー獲得コストが初期負担として重くのしかかるため、ユーザーが一定数に達してビジネスが軌道に乗るまでの期間は長くなりがちです。
SaaSの「40%ルール」とは
そこで、こうしたSaaSのビジネスの決算書を見るときにおさえておきたいポイントについて、昨年(2017年)、上場したばかりのマネーフォワードを例にして見ていきましょう。
マネーフォワードは2つの事業の柱があります。「個人向け家計簿ソフト」と、「法人向けの会計ソフト」です。いずれもパッケージでの売り切りではなく、定額課金によるサブスクリプション型のSaaSです。
マネーフォワードの決算スライドを見ると、売上は前期比88%増と非常に強い数字です。
株式会社マネーフォワード2017年11月期 通期決算説明資料より抜粋。
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ところが、営業利益は7.9億円の赤字です。これはSaaSの宿命とも言えるものです。サブスクリプション型でソフトウェアを提供しているため、顧客数が一定規模に達するまでは広告宣伝費などの負担が大きくなるため、赤字となっています。
これはマネーフォワードにかぎった話ではなく、サービスを開始したばかりのSaaS企業はビジネスモデル的に赤字を抱えやすくなっています。
では、どの程度までの赤字を許容すべきでしょうか。SaaS企業の決算スライドを見るときの基準として使ってほしいのが「40%ルール」です。
・売上高の前年比(YoY)成長率
・営業利益率
この2つの合計が40%を超えていれば許容範囲とするのが、シリコンバレーの投資家の間での一般的な考え方です。
「前年比の売上高成長率が80%、営業利益率がマイナス40%なら合計40%となるのでOK」「営業利益率がマイナス60%なら合計が20%となり40%を割ってしまうため問題あり」となります。
この40%ルールに照らしてマネーフォワードの数字を見ると、前年比の売上高は88%、営業利益率はマイナス27%で合計61%です。40%を超えているため問題のないレベルであることがわかります。
「ユニットエコノミクス」でビジネス効率を測る
次にマネーフォワードのSaaSが儲かりやすいビジネスモデルとなっているのか、「ユニットエコノミクス」を計算してみましょう。ユニットエコノミクスというのは、「顧客1人あたりの平均の経済性」です。つまり、ユーザーを1人獲得したときに、どれくらい儲かるのかを見ていきます。
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