柳井政和「レトロゲームファクトリー」

柳井政和「レトロゲームファクトリー」第11回

レトロゲームを最新機用に移植する会社「レトロゲームファクトリー」。社長の灰江田直樹とプログラマーの白野高義(コーギー)は、ある日、業界大手・白鳳アミューズメントの山崎から仕事の依頼を受ける。それは、ファミコン時代の伝説のゲーム「UGOコレクション」全十本の移植。ただし、この実現には大きな障害があった。なぜか最後のゲーム「Aホークツイン」の権利だけ買い取った開発者の赤瀬裕吾が行方不明になっていること、そして今現在、その海賊版が出回っていること――。
電子書籍文芸誌「yom yom」に掲載中の人気連載を出張公開。

 空はすでに暗くなっている。灰江田は、失意とともにドットイートの扉を開けた。  
 コーヒーの香りのする店内では、電子音が鳴り響いている。カウンターのテレビやモニターの前には、コーヒーカップやクッキーの皿が並び、常連客たちがゲームをしている。サイクリングショップの高蝶が、得意の十六連射で周囲を沸かせていた。猪股は方眼紙に、ダンジョンのマッピングをしている。鹿本はストップウオッチ片手にタイムアタックをしている。灰江田は周囲を見回す。客たちの端には、不登校小学生のサトシもいて画面に向かっていた。  
 カウンターの中では、ナナが暇そうにタブレット端末を見ている。客がいるといっても、頻繁に注文があるわけではない。いつものようにネットを巡回して、古いゲームの情報でも調べているのだろう。
「ようっ、コーギーは」
「上よ。なにか食べる」  
 端末から顔を上げて、ナナが尋ねてくる。そういえば今日は、なにも口にしていない。二日酔いも覚めたことだし腹になにか入れよう。
「じゃあ、ハンバーグセットを頼む」
「面倒だからサンドイッチにして。それならすぐにできるから」
「おいおい、俺は客だぞ」  
 灰江田は呆れた顔をする。
「ツケを払うまでは、お客さんじゃないからね」  
 ナナは、バリアでも張るように答えたあと、返事を待たずにパンとレタスを出して、包丁の切っ先をこちらに向けた。  
 くそっ。灰江田は心の中で毒づく。しかし、ビルの入居者割引で、格安で提供してくれるので文句は言えない。それに、ナナはそもそも料理が苦手だ。雇われ店長になって二年以上経つのに、レシピを見ながらでないと料理を作れない。ハンバーグセットを拒否するのは分かる。人には得手不得手があるのだ。
 作りたくないなら、メニューから外せばよいのにと思うが、メニューを変更するのも嫌らしい。これはナナの性格だ。すべてのものが、以前のとおり整然と並んでいなければ気が済まない。おかげでゲーム機やソフトなど、物が大量にある店内は、驚くほどきれいに片づいており、掃除も行き届いている。これらはナナの得意なことだ。
「はい、どうぞ」  
 定規で測ったようにサンドイッチが配置されている。灰江田は、出てきた料理をコーヒーで流し込んだあと立ち上がった。壁の時計は、十九時を回っている。灰江田はカウンター席に座るサトシを見て、ナナに声をかける。
「送っていこうか」
「そうね、お願い」
「おいっ、サトシ。送っていってやる」  
 サトシはこちらを見たあと、ファミコン本体からカセットを引き抜き、棚に片づけた。サトシは灰江田のところまでやって来る。行くぞと声をかけて、ふたたび外に出た。日中と違い、風は冷たくなっている。灰江田は、小学生を引き連れて夜道を歩く。
「なあ、サトシ。学校に行ったらどうなんだよ」
「今日は土曜日だよ」   
 おっとりとした声で、サトシは言う。
「いや、平日のことだよ。おまえ、今週も休んでいたじゃねえか」  
 頬の丸いサトシは、灰江田を見上げたあと悲しそうな顔をする。
「ずっとゲームばかりしているわけにもいかんだろう」
「ゲームはいいよね。結果がはっきりしていて」  
 質問と違う答えをサトシは返す。まあ、小学生だしなと思い、尋ねることを変える。
「おまえさあ、昔のゲームでも面白いのかよ」
「僕は、レトロゲーム、好きだよ。僕がやったことを、すぐに褒めてくれるから」  
 なるほどと思う。昔のゲームは演出が少ない分、短い時間で手応えを感じられる。サトシを観察していて気づいたことがある。自己肯定感が希薄なのだ。現実世界で、あまり褒められていないのだろう。そうしたサトシにとって、ゲームは自分を褒めてくれる便利な装置なのかもしれない。
「UGOブランドのゲームはやってみたか」  
 いまの子供が、赤瀬のゲームをどう思っているのか知りたかった。
「一通りやってみたよ。名作揃いだね。でも、Aホークツインは期待外れだったかなあ」
「そうか。どういう風に、期待外れだったんだ」
「面白いんだけど、複雑さが足りないね。他のUGOブランドのゲームは、一回クリアしても、次はどう遊ぼうかって感じで、遊び方が広がるんだ。でも、Aホークツインは一回で終わりなんだ」  
 なるほど。確かに深みはない。
「それに、なんか違和感があるんだよね」

この続きは有料会員登録をすると
読むことができます。
cakes会員の方はここからログイン

1週間無料のお試し購読する

cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。

人気の連載

おすすめ記事

2018年6月号は連続特集「『ポケモン』から20年と未来の日本ゲーム」、俳優・藤原祐規さんインタビュー、恒川光太郎さんと伊藤朱里さんの特別短編など。あらゆるエンタメを自由に楽しむ電子の文芸誌、毎奇数月第3金曜に配信!

yom yom vol.50(2018年6月号)[雑誌]

米光一成,さやわか,吉野万理子,恒川光太郎,伊藤朱里,藤原祐規,千早茜,尾崎世界観,三上延,中江有里,柳井政和,柏井壽,最果タヒ,宮木あや子,武田綾乃,町田そのこ,瀧羽麻子,門井慶喜,中山七里,東川篤哉,堀内公太郎,垣谷美雨,ふみふみこ,鴻巣友季子,新納翔,砂田麻美,カレー沢薫,こだま,新井久幸
新潮社
2018-05-18

この連載について

初回を読む
柳井政和「レトロゲームファクトリー」

柳井政和 /新潮社yom yom編集部

失踪した伝説的ゲームクリエイターの謎を追え――。 『裏切りのプログラム ハッカー探偵 鹿敷堂桂馬』で小説家デビューを果たした プログラマー・ゲーム開発者が贈る、本格ゲーム業界小説! 電子書籍文芸誌「yom yom」に...もっと読む

この連載の人気記事

関連記事

関連キーワード

コメント

ruten 小説『レトロゲームファクトリー』のcakes連載第11回が、先週金曜日に公開されました。ゲーム好きの人も小説好きの人も是非。 https://t.co/f7jt7QKl2Y #cakes #小説 #ゲーム #レトロゲーム https://t.co/7VPiAnsd9V 10ヶ月前 replyretweetfavorite