超歌手

女芸人の墓

現代を生き抜く至言満載!
妥協なき創作活動で支持されるミュージシャン・大森靖子が、生死、社会、芸術、偏愛まで余すことなく書きつけた、超本音エッセイ集『超歌手』(6/7発売)。
本書の刊行を記念し、cakesで一部を特別公開します。
くだらないを壊せ。美しく生きろ。

女という性別を内包した「私」という人間

音楽業界で女性として他のバンドマンと同じようにステージに立つのって、他の社会のことは知らないですが、まじで女っていうのが邪魔でしょうがなかったんですよ。

女性だからされる差別がつらいっていうのじゃなくて、女にはわからないだろうとされる世界に没入することが美徳とされていたりだとか、モテるためにバンドやっていたりとか、バンドをやっている俺たち、フェスを開催している俺たち、に陶酔しているノリがあって。まざまざと現場で気持ち悪さにあてられて、私が思っていたことは「女として見られないぐらいの化け物になりたい」「とにかく実力でねじ伏せたい」でした。

つまり、「女として扱われないこと」が「差別されないこと」なんです、特殊かもしれないですけど。でも女なんですよ、性別がね。それがイヤなわけではなくて、むしろかわいいもの大好きだから女の子でよかったなと思うし、でも自分には女の子をする権利がないみたく感じる日もあるし。

なんとか明文化すると、「女という性別を内包した私という人間を音楽にぶちこんで美しく閃きたい」がいちばん自分のスタンスに近いかなあ。女の子として輝きたいな、みたいな気持ちはあんまなくて。

この感覚、本当に伝わりづらくて、インタビューでもうまく答えられず、「最近女性ミュージシャンが元気で、面白い人がたくさんでてきてますよね。どう思いますか?」などととてもよく聞かれるんですが、そういうことじゃないんだよなっていつも思っていて。

人間として最大限のパフォーマンスをするために女を使っている人は特に大好きだし、ハンデのある中で肩を並べて戦おうという人は女を言い訳になんて絶対にしないわけで。

いかに女の自由が歴史の上でつくられてきた取り戻されてきたその恩恵にあずかっている今であったとしても、誰に何と言われようと、私の自由は私のうちから生まれた誰にも触れられない私だけのものだから。

私は私のやり方で芸術の尊厳を守りたい、女の子がもっと女の子をしていいことも守りたいし、女を利用することも守りたいし、女を捨てることも守りたい。

大阪の音楽シーンで最も影響力を持っているラジオ局の番組に、メジャーデビューのタイミングで出演したとき、「生理のナプキン」というワードを使ったら、「自主規制ワードです、今後気をつけてください」と言われたんですよ。「は?」みたいな。全然言わないですけど、「は?」って思って。

「ドキュメンタル」と女芸人

「ドキュメンタル」という、ダウンタウン松本人志さんがおっぱじめたアマゾンプライムの番組がめっちゃ好きなんですけど。10人の芸人が100万円ずつ用意し、密室で互いを笑わせ合いサバイバルし、最後まで笑わなかった人が1000万円もらえるという内容なんですが、ネット番組なので規制も甘めで、オードリー春日さんの包茎の皮の中に食玩を入れて出てくる様子を楽しんだりとか、とにかく笑いにストイックで笑いがいちばん偉い、使えるものはコンプレックスだろうが何だろうがぜんぶ使って笑わせろ! という、裸の力量が問われる戦いで、私がいつも思っているライブの感覚に近くてすごい好きな番組なんです。

メンツはいつも松本さんがセレクトしているということで招待状が送られ参加するかどうか決められるシステムなんですが、シーズン4までに参加した女芸人は森三中から大島さん、黒沢さんがそれぞれ一回ずつのみ。

松本人志さんはかつて『遺書』という著書の中で、「お笑いでは自分のすべてをさらけ出さなくてはいけないのに、女は身も心も素っ裸になることができない、だから女は笑いに向かない」という趣旨のことを書いていたんですね。そのまんまの裸になるという意味と、抽象的な意味もあるんだと思いますけど、どちらにせよ、学級図書として棚の上に置かれていたその本を朝の読書の時間に読んだ中学生の大森靖子はムカついたんですよ。

「いやいやいやいや普通にこのクラスでいちばん面白いの絶対私やんけ、こいつらに勝てんわけあるか、全然裸なれるけんね」と。

なんだよ男に勝てないってと思って、でもたしかに力でいつも勝てないし、ゲームとかも弟に勝てないし、クラスでギター持ってバンドやってるのも男の子で青春感だしなんだよって。ほんと悔しいばっかりだなーと思って。

その数年後、2009年12月31日放送のダウンタウンのレギュラー番組の特番「絶対に笑ってはいけないホテルマン24時」で、森三中の大島さんがタオルを下半身に巻いて、ダウンタウン浜田さんの入ってきたサウナに胸丸出しで涅槃仏のように寝転がっている場面があって。女性器も晒して、放送では大島さんの顔で秘部が隠されていて。

ナチュラルに裸の大島さんと浜田さんがサウナにいる絵を見てもう、泣きながら笑ったんですよ。

女芸人は裸になれないから面白さで勝てないという趣旨のことを言った松本さんの番組で、裸になって、笑いをかっさらっているこのかっこいい女性なんなんだよーと。しかも森三中が単純に裸になるだけじゃなく、裸になって笑える地盤をつくったのは「ガキ使」で、ほかでもないダウンタウンの浜田さんだと私は思っているのも含め、すごいストーリーだなと思って。

森三中で泣き笑い

私がお笑いで面白すぎて泣いたのは人生で4回あって、そのうちの2回が大島さんなんですよ。

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現代を生き抜く至言満載! 超歌手・大森靖子による超本音エッセイ。

超歌手

大森 靖子
毎日新聞出版
2018-06-07

この連載について

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超歌手

大森靖子

現代を生き抜く至言満載! 妥協なき創作活動で支持されるミュージシャン・大森靖子が、生死、社会、芸術、偏愛まで、余すことなく書きつけた、超本音エッセイ集『超歌手』(6/7発売)。 本書の刊行...もっと読む

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コメント

frontier_fuji https://t.co/WzjnNrlUAC 3ヶ月前 replyretweetfavorite

menimenimeniscu 読みたくなったので買うか。 6ヶ月前 replyretweetfavorite

marekingu 「ドキュメンタル」と #スマートニュース 7ヶ月前 replyretweetfavorite