イラスト:堀越ジェシーありさ
最初の休み時間、タイミングを見計らってミキコさんに話しかけた。普段あまり話さないので、マサキはちょっと緊張した。
「ミキコさん、ちょっといい?」
「あれ、マサキくん。どうしたの?」
「……昨日、変な夢見た?」
ミキコさんは驚いた顔をしている。
「変な夢……。え! どうして知ってるの?」
「しっ!」
急に大きな声を出したので、みんなが振り返った。普段見ない二人の組み合わせに、周りは言葉にせずとも、何かあったのか、という顔をしている。
「どんな夢だったか、話せる?」
「んっと……なんかね、変なお姉さんが出てきて、夢の修正? をするかって言われたよ。変な夢だったなぁ」
「してもらった?」
「うん」
「よかった」
マサキは胸をなで下した。
「久しぶりに覚えている夢を見た気がするんだ。最近、ずっと夢を見てなかったから。実は、作文も嘘ついて書いちゃったの」
「え……覚えてないんだ?」
内容を覚えていなくても、心に夢の余韻はのしかかる。毎日であれば、原因もわからないまま、〝いやな感覚〟だけがどんどん積もっていくはずだ。
「うん。でも、どうして昨日私が変な夢を見たこと知ってるの?」
「なんでってそりゃ……夢で会ったの、覚えてない?」
一瞬、しん、とした空気が辺りを包んだ。なぜか周りの視線が鋭くマサキに注がれている。知らない間にかなり注目されていたらしい。
「ごめん、またあとで……」
そう言って、きまりが悪そうにマサキは自分の席に戻った。すぐにチャイムが鳴って授業が始まる。その時は救われたように思った。しかし、次の休み時間、ミキコさんが教室を出て行った途端。
「『夢で会ったの、覚えてない?』だって? マサキ、そりゃないわ」
アキヒロが、マサキの真似をしながら冷やかした。この裏切り者め。
「変な漫画の見過ぎじゃないの」
隣の席で絵を描いていたサクミさんが、こっちを見ないで言う。聞いていたらしい。
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