もう彼女の夢を見ることはなくなっていた

【他人の夢⑨】
翌日、夢での出来事を彼女は何も覚えていなかった。「夢で会ったの、覚えてない?」 そんなことを言われても、意味がわからないだけだっただろう。彼女の夢を見ることはなくなったあとも、僕はまた他人の夢を見続けていた
<WEAVERの河邊徹がドラムスティックからペンに持ち替えて描いた作家デビュー作!>


イラスト:堀越ジェシーありさ



 最初の休み時間、タイミングを見計らってミキコさんに話しかけた。普段あまり話さないので、マサキはちょっと緊張した。

「ミキコさん、ちょっといい?」

「あれ、マサキくん。どうしたの?」

「……昨日、変な夢見た?」

 ミキコさんは驚いた顔をしている。

「変な夢……。え! どうして知ってるの?」

「しっ!」

 急に大きな声を出したので、みんなが振り返った。普段見ない二人の組み合わせに、周りは言葉にせずとも、何かあったのか、という顔をしている。

「どんな夢だったか、話せる?」

「んっと……なんかね、変なお姉さんが出てきて、夢の修正? をするかって言われたよ。変な夢だったなぁ」

「してもらった?」

「うん」

「よかった」

 マサキは胸をなで下した。

「久しぶりに覚えている夢を見た気がするんだ。最近、ずっと夢を見てなかったから。実は、作文も嘘ついて書いちゃったの」

「え……覚えてないんだ?」

 内容を覚えていなくても、心に夢の余韻はのしかかる。毎日であれば、原因もわからないまま、〝いやな感覚〟だけがどんどん積もっていくはずだ。

「うん。でも、どうして昨日私が変な夢を見たこと知ってるの?」

「なんでってそりゃ……夢で会ったの、覚えてない?」

 一瞬、しん、とした空気が辺りを包んだ。なぜか周りの視線が鋭くマサキに注がれている。知らない間にかなり注目されていたらしい。

「ごめん、またあとで……」

 そう言って、きまりが悪そうにマサキは自分の席に戻った。すぐにチャイムが鳴って授業が始まる。その時は救われたように思った。しかし、次の休み時間、ミキコさんが教室を出て行った途端。

「『夢で会ったの、覚えてない?』だって? マサキ、そりゃないわ」

 アキヒロが、マサキの真似をしながら冷やかした。この裏切り者め。

「変な漫画の見過ぎじゃないの」

 隣の席で絵を描いていたサクミさんが、こっちを見ないで言う。聞いていたらしい。

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夢工場ラムレス

河邉徹

WEAVERのドラマー・河邊徹の作家デビュー作。バンドで作詞を担当してきた河邊の 〝言葉の世界〟をドラムスティックからペンに持ち替え、描いた「夢」をテーマにした長編作。 ...もっと読む

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