夢から覚めてしまう前にやらなければ……

【他人の夢⑧】
夢が覚めるまで時間はなかった。夢工場を飛び出るとミキコさんの夢の扉へ。急いで向かった。その扉を開けて、驚いている彼女を……
<WEAVERの河邊徹がドラムスティックからペンに持ち替えて描いた作家デビュー作!>

イラスト:堀越ジェシーありさ



マサキは広い廊下を駆け抜けた。当てずっぽうの中に、静かな確信を抱いていた。

 走った先に見つけた扉を開くと、その瞬間に景色は滲んだ、正しい出口だったかはわからない。滲んだ景色の中で、扉の先の通路を駆け抜け、そしてもう一つの扉を開いた。

 そこは、マサキが夢でも現実でも見慣れた場所だった。学校の音楽室。時間は放課後のようで、窓から夕日が差し込んでいる。景色は相変わらずぼんやりしていた。

 ピアノの前に、女の子が一人座っている。ミキコさんだ。ミキコさんは一人で楽譜を眺めているようだった。

「ミキコさん」

 ミキコさんは声がした方に振り返った。


「マサキくん?」

 驚いた顔をしていた。

「……大丈夫?」

 とりあえずそう聞いたが、マサキの声を聞いて、ミキコさんは突然泣き出した。

「ピアノが……」

 そう言って、言葉の続きを紡ぎ出そうとして、うまくいかない。終いには声を上げて泣き出した。こんな姿、現実では見たことがなかった。

「……ピアノが、弾けないの。何度やっても、失敗するの」

 それは、ミキコさんにとって残酷な悪夢だった。緊張のあまり失敗する夢や、楽譜が読めなくなる夢。そんな夢を繰り返し見ることで、現実の世界でも、常に心の中で不安が勝ってしまうようになる。

「ミキコさん、これは夢だよ」

 ちゃんと教えてあげなくてはいけない。

「夢……?」

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夢工場ラムレス

河邉徹

WEAVERのドラマー・河邊徹の作家デビュー作。バンドで作詞を担当してきた河邊の 〝言葉の世界〟をドラムスティックからペンに持ち替え、描いた「夢」をテーマにした長編作。 ...もっと読む

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