◆#30◆
「いやあ、大変だったねえ、香田ちゃん。まあそう怒んないでよ」
室長はおれにインスタントコーヒーを淹れ、その紙コップを手渡した。
「怒ってないっすよ」
おれは怒っていたが、別に室長に対して怒っているわけではなかった。
「あんな奴が関わってるんだったら、最初からツーマンセルなんて危険すぎたんですよ」
「まあまあ。武田さんだってその辺、知らなかったんだからさァ、みんな被害者だよ」
室長は机に座った。おれはまだ食い下がり、その前に立ったままだった。
「ほんとに、誰も知らなかったんですか? 第一人事部も?」
「そう、第一人事部ですら知らなかった」
「あいつ、誰なんです?」
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