男が男とお茶できる未来は明るい 山内マリコ×武田砂鉄

情けなくも愛すべき「ちょいダメ」男たちを描いた、山内マリコさんの最新小説集『選んだ孤独はよい孤独』。その山内さんと、「ザ・男社会」を斜め下から鋭く批評しているライター・武田砂鉄さんが「男の生きづらさ」について語る後半です。もはや女よりも男の方が不自由……なんでしょうか?
(写真:宇壽山貴久子)
前半はこちらからどうぞ

一緒にトイレに行く女同士より、群れでランチに行く男たちの方が多い

山内マリコ(以下、山内) 私は新卒で就職もせずに、ずっとアウトサイドを歩いてきたんですけど、武田さんはフリーライターになる前に会社勤めされてたんですよね。なんで辞めようと思ったんですか?

武田砂鉄(以下、武田) いずれライターとして独立したいとは思っていたので、辞めるつもりではいたのですが、辞めようと決断するための小さな理由をいくつも備蓄していた感覚があります。例えば、会社に入ったばかりの頃、毎日のように昼飯に連れ立って行く男性たちがいたんですね。

山内 え、みんなで?

武田 まあ3、4人でくらいですけど、上司が「◯◯、行こうぜ!」みたいな感じで昼食に誘うのが毎日の慣例になっていた。若造の生意気な頭で、なんで昼まで一緒にいなきゃいけないんだよ、と思ったのです。オフィス街を歩いていると気付きますが、案外、女性はひとりでランチに行っていて、男性のほうが群れて動いてるように見えます。

山内 実際は男性の方が群れたがりますよね。仕事のあと、徒党を組んで男だけで飲みに行く。女子会の数なんてその比じゃないのに、でもなんとなく世の中的には「女がまた一緒にトイレに行ってるよー」と言われがち。

武田 そうなんですよね。あとこれもまた小さいことですが、ある大手取引先の人事異動一覧がファクスで送られてくると、オジサマたちがスクラムを組まんばかりに集まってきて、「あの人、◯◯支店に飛ばされたか……」とか「おお、ついに部長代理か!」などと、はしゃいでいる。その光景が何かに似ていると思ったら、小学生の時にみんなでカブトムシを見つけた朝と、中学生の時に公園に落ちていたエロ本を見つけて回し読みした夕暮れなのです。自分は、カブトムシやエロ本と同じようには、人事に熱中できない、と思ったんですね。

山内 (笑)。でもそのスクラムを見ても、たいていの人はドン引きせず、メタ的に見ることもなく、定年まで働くコースを選びますよね。

武田 むしろ、スクラムに参加できないと、会社組織では成り上がれない。自分にはできないな、ならば一人で自由に働こうと、きっぱり切り替えました。

もっと男同士でお茶しようよ、のススメ

山内 『選んだ孤独』のなかの「本当にあった話」って掌編も、高校時代にほんとにあった話なんです。分厚い眼鏡をかけて一年間つまんない授業したおじさんの先生が、「先生は明日で定年だから、最後に人生の授業をします」って前振りしたんです。私ピュアだったから(笑)、一体どんな感動秘話を聞かせてくれるんだろう、ヤバい泣くかもって期待していたら、人生の節目節目にどのくらいの金がかかるか、いかに保険が大切かって話を、一時間続けたんです。グラフ書きながら。

武田 うわー、最悪ですね。武田鉄矢まがいの熱弁をされても困るけれど、それはそれで……。

山内 最悪ですよね。仮に、彼が人生で大事なのは保険だと、100万パーセント確信していたとしても、高校生を前にしてそれをやるべきじゃない。ただ、そういう、ひーこら働いて生きてきた男の人たちをもっと祝福するような小説を書いてあげたかった気もして……。

武田 かといって、この作品集は、愛人との都合の良い逢瀬とか(笑)、男たちに甘い蜜を与えているわけではないですもんね。

山内 そうですね、そういう小説は、これまで散々書かれてきましたしね。

武田 自分はこれまでずっとそうだったんですが、女性とグダグダしゃべっていることの方が多いし、楽しいんです。女性とは「いま自分が何を考えているのか」という話になることが多いのですが、男性とは「いま自分が何をやってるか」みたいな状況交換になりがち。そいつが会社で何かのプロジェクトリーダーになった話なんて、1ミリも聞きたくないです。

山内 仕事の話しかできない男性は多いですね。あとそれって、情報交換に見せかけたマウンティングでは? マウンティングって言葉が浸透した時も、やたら「女性がしがちなやつ」って感じで喧伝されてたけど、実は男性の習性という気がします。

武田 なるほど確かに。以前、週刊誌の編集者に聞いたんですが、何度繰り返してもウケる鉄板企画は、会社を辞めて独立したら失敗した、以前よりも年収が下がった、っていう転職失敗ネタらしいんです。それを読み、サラリーマンが溜飲を下げているのかどうか。

山内 うわー。

武田 これは持論なんですが、男性も女性みたいにもっと男同士でお茶した方がいい、って思っているんです。女同士はお茶して、ただ仲良く話すだけじゃなくて、ときには、自分の苛立ちやお互い理解できていないところまで話して、ぶつけ合うそうじゃないですか。もちろん、理解しなくってもいい、って選択肢も含めて。そこまで互いを許容しているように見えます。
 男は割とすぐ、酒を飲んで話そうや、になるけれど、一対一じゃなくて連帯になるから、またそこでスクラムの組み直しになる。「スクラム 夜の部」です。だから最近、「お茶しようよ」と誘うようにしています。最初は何だか気まずいんだけど、やがて、今、こんなこと考えていて、と教えてくれる。

男には「無難なところ」が用意されている

山内 ああ、サンマルクとかに行くと、おばちゃんたちは友達と楽しそうに喋っていて、おじさんたちは寝るかボーッとしている図がありますよね。性差というか、生態がよくわかる。ただ、最大限の努力をしてフェアに見ると、そのおばちゃんたちがお茶を楽しめている時間って、彼女の夫たちが働いている時間の裏返しじゃないですか。そう考えると男性は気の毒かなーと。

武田 気の毒ですかね?

この続きは有料会員登録をすると
読むことができます。
cakes会員の方はここからログイン

1週間無料のお試し購読する

cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。

人気の連載

おすすめ記事

この連載について

初回を読む
君たちが生きづらいのは、決して女のせいじゃない

山内マリコ

デビューからこれまで、等身大の女性のリアルを描き、女性読者の絶大な共感を得てきた作家・山内マリコさん。そんな山内さんが一転、最新刊『選んだ孤独はよい孤独』で描くのは、情けなくも愛すべきちょいダメ男たちの物語。女性の味方・山内さんが、男...もっと読む

この連載の人気記事

関連記事

関連キーワード

コメント

kazuu88 https://t.co/1PQWBz3IWT 9ヶ月前 replyretweetfavorite

maricofff 忙しい砂鉄さんがわざわざ時間作ってお話しくれたのでみんな読んで〜!!! https://t.co/ziN3cHOJbg 約1年前 replyretweetfavorite

yo_satsuki 「男性も女性みたいにもっと男同士でお茶した方… https://t.co/Z2qLAi97Qk 約1年前 replyretweetfavorite

maricofff 明日まで無料! 明日まで無料! https://t.co/ziN3cHOJbg 約1年前 replyretweetfavorite