イラスト:堀越ジェシーありさ
ミキコさんは吹奏楽部で、テニス部よりもいつも終わるのが少し遅い。学校から駅側に向かわず、南側に住んでいる人はそんなに多くないので、部活が終わってからの帰り道はいつも一人のようだ。
三人の男子はなぜか同時に息を潜めた。少し俯きながら歩くミキコさんの顔には、伸ばしたままの長い髪がかかっている。
歩いて来るミキコさんに聞こえないくらいの声で、アキヒロが言った。
「あいつ、最近変わったよな」
アキヒロとミキコさんは、確か家が近くて幼馴染のはずだ。
「そうかな? もともとあんな感じじゃなかったっけ」
ヒラマツも小さな声で言った。
「なんかさ、去年もあいつと同じクラスだったんだけど、学校でもっと明るかった気がするんだよな。最近、授業中もボーッとしてるし」
「そう? 今日も女子と普通に笑ってた気がしたけど。ってかよく見てるな。お前、もしかしてミキコちゃんのこと好きなんじゃね?」
「バカっ! そんなんじゃねえって」
アキヒロが過剰に声を荒げた。その声に反応して、ミキコさんはこちらに気づいたようだった。ちらっと目をやって、すぐそらす。それからまるで何も見なかったように、同じ歩幅で通り過ぎていった。
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