他人が見るべきはずの夢を見ていた

【他人の夢③】
教室の後ろに貼られたクラス全員の作文を読んでいるうちに、あることに気がついた。みんなの〝夢〟は〝自分の視点からの夢〟なのに、自分の夢は〝他人になる夢〟なのだ。誰もその事実に気づいていないようだったが、僕は自分の夢が普通じゃないということに気がついた……
<WEAVERの河邊徹がドラムスティックからペンに持ち替えて描いた作家デビュー作!>

イラスト:堀越ジェシーありさ



昼の休み時間や放課後に、マサキは掲示されている、みんなが書いた様々な作文を順番に読んでいった。ヒラマツの作文は二枚目の後半くらいまで続いていた。アキヒロのは、原稿用紙の半分に届かないくらいだった。

 順番に読んでいくと、それぞれ夢らしい、現実には起こり得ないことが書かれてあり、飽きずに読めて楽しい。今までも、クラスメイトの読書感想文を読むことはあったが、正直あまりこんな風に面白いと思って読んだことはなかった。

「こんな夢を見た」から始まるアキヒロの作文の内容は、朝学校に行くと、校舎が蔦でぐるぐる巻きにされている夢だったらしい。サクミさんは、お母さんが大好きなレモンパイを焼いてくれる夢だった。

 そうやってほぼ全員のを読み終える頃、マサキはあることに気がついた。それは、それぞれの作文の長さでも、アキヒロの字の汚さでもなかった。

 みんなが、自分が視点の夢ばかりを見ていることだった。

 みんなの夢の内容は、夢らしい突飛なものがあっても、主語になっているのは必ず「自分」だった。一方で、この時マサキが書いた作文は、自分が知らないおじさんになって、高層ビルの窓際から街を見下ろしている夢だった。

 誰も、自分のこのおかしな夢が、「変」であることを指摘しなかった。夢はもともと突飛で変なものだとされているからだ。そう言えば小学生の頃、母に「昨日はお母さんになる夢を見たよ」と話したこともある。その時母は、「そうなの⁉」と言って笑っていただけだった。そんな風に、夢は変だから夢であって、その話に真剣に取り合う人などいない。

 マサキはこの時初めて、夢は普通、自分の視点で見るものなのだと知った。

 自分は他人になる夢を見ている。他人が見るべきはずの夢を見ている。全く知らない人になることもあれば、知っている人になることもある。肝心の内容については、他の人と同様に支離滅裂なものが多い。だけど、自分が夢でなった人の考えていることが、遠くから頭の中に流れ込んでくるようで、なんとなく嬉しい気持ちになったり悲しい気持ちになったりする。

 教室の後ろで、全てのクラスメイトの作文を読み終えて、マサキは自分の作文を今すぐに剝して捨てたくなった。なぜだか恥ずかしさでいっぱいだった。他の人は誰も、視点の違いになんて気づいていないようだったけれど。

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夢工場ラムレス

河邉徹

WEAVERのドラマー・河邊徹の作家デビュー作。バンドで作詞を担当してきた河邊の 〝言葉の世界〟をドラムスティックからペンに持ち替え、描いた「夢」をテーマにした長編作。 「夢を...もっと読む

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