イラスト:堀越ジェシーありさ
中学生になってからも、既視感は度々訪れたが、慣れとは怖いもので、その原因についてはあまり深く考えることはなかった。そもそも自分が他の人と違う理由なんて、誰もちゃんと考えたことがないものだと思う。アキヒロがクラスで一番足が速いのも、サクミさんが絵を描くのが上手なのも、誰も彼らに特別な理由があるとは思っていないだろう。ただただ、その才能があったのだ。
一方で、ミキコさんがピアノを弾くのが上手なのは、それとは少し違って、きっと小さい頃からピアノ教室に通っていたからだろう。
努力によって勝ち得た力と、才能によって最初から持っている力は違う。努力は時間をかけて、結果に結びつく。才能はそれとは違う。アキヒロやサクミさんの「足が速い」や「絵が上手」というような部類の力は、生まれつきその力があったのだと思う。
だけど、自分が人と違う才能を持っていることを、ただ、「違う」という事実だけを受け入れて、誰もその理由を探さないのは変じゃないだろうか。一度母にそんなことを話した時、母は少し考えて「遺伝子が違うのよ」と言っていたけれど、その説明は如何にも淡白で、なんだか納得できない気持ちだった
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