「ラーメン女子」とか「弁当男子」ということばを聞いたことはありませんか? このことばがちょっと気になってしまうのは、形容矛盾だからです。形容矛盾とは、矛盾することばが同居する表現のことです。例えば「小さな巨人」(オロナミンC)とか「聖なる愚者」(フォレスト・ガンプとかフーテンの寅さん)がそうです。ラーメンは男っぽい食べ物だし、「愛妻弁当」ということばがあるように弁当は女が作るものです。こういった「常識」に反する表現だから、気になるのです。
この「常識」は、性役割というものが作り上げたものです。性役割とは、「女らしさ」とか「男らしさ」について世間から期待されることを指します。性役割は私たちの毎日の消費に色濃く反映されています。「女」とか「男」など自分が属するジェンダーが、どのように行動すべきか、何を着るべきか、どのように話すべきかについて、私たちは気にしています。例えば、ぼくが牛丼を食べることについて皆さんは不思議に思わないだろうけれども、パンケーキが大好きだと言ったら、ちょっと奇妙に思うでしょう。このように性役割には、それに伴う消費があるのです。これを性役割製品と言います。
性役割はマーケティングにとって重要です。牛丼は男っぽい、パンケーキは女子っぽい、という「常識」を理解していないと、適切なマーケティングができないからです。
1990年代、ぼくが学生だった頃、吉野家が「吉野家USA」という実験店舗を展開していました。吉野家USAは、普通の吉野家とは違って、マクドナルドのようにセルフでカウンターで注文するスタイルでした。さらに、牛丼のことを「ビーフボウル」と名前を変えて、並はレギュラー、大盛はラージ、特盛はエクストララージと呼んでいました(笑)。さらにダンキンドーナツも一緒に売っていました。どうやら男臭い牛丼をアメリカン(?)な名前にして、女性が好きなドーナツを併売することで、牛丼を女性にも食べてもらいたかったようでした。
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