命の賛歌

「私」はどこからきたのか?1969年7月20日。人類がはじめて月面を歩いてから50年。宇宙の謎はどこまで解き明かされたのでしょうか。本書は、NASAの中核研究機関・JPLジェット推進研究所で火星探査ロボット開発をリードしている著者による、宇宙探査の最前線。「悪魔」に魂を売った天才技術者。アポロ計画を陰から支えた無名の女性プログラマー。太陽系探査の驚くべき発見。そして、永遠の問い「我々はどこからきたのか」への答え──。宇宙開発最前線で活躍する著者だからこそ書けたイメジネーションあふれる渾身の書き下ろし!人気コミック『宇宙兄弟』の公式HPで連載をもち、監修協力を務め、NASAジェット推進研究所で技術開発に従事する研究者 小野雅裕がひも解く、宇宙への旅。 小野雅裕の書籍『宇宙に命はあるのか ─ 人類が旅した一千億分の八 ─』を特別公開します。


命。命とは何だろう?

命は感じる。命は蠢く。命は育つ。命は咲く。命は歌う。命は踊る。命は命に恋する。命は命を生む。命は命を愛する。

神を信じる者にとって命とは神の神聖なる創造物。科学を極める者にとって命は自然の精緻なる最高傑作。命を産み落としし母にとってそれは星よりも重い唯一無二の宝石。命を殺めしものにとってすら、自ら手にかけし亡骸の虚しさは命の神秘を訴えるだろう。

もし宇宙に命がなかったら? そうだとしても、星々は粛々と水素を核融合させながら燃え、そのまわりを惑星は重力の法則に従い黙々と回り続け、その空には光学の法則に従って美しい虹が映し出されるだろう。誰のために?

震える心がなくとも夜空には天の川がかかる。感じる魂がなくとも夕焼けは赤く燃える。何のために?

なぜ観客がいないのにバレリーナは踊る?

なぜ人のいない舞踏会に音楽は鳴る?

ときどき、僕はこんな空想をする。命とは宇宙に穿たれた穴ではないか。大きな黒い箱の中にとびきり美しい物が入っているらしい。その箱には小さな穴がいくつかあいていて、人々が交代でそこから中を覗いている。その美しさは評判で、穴を覗くために長い列ができている。百三十八億年待ってやっと僕の順番が回ってきて、穴に目を当てる。美しさに魂が震え、楽しさに心が躍る。ずっと眺めていたいが次の人が待っているので譲る。それが僕の命だ。

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宇宙に命はあるのか ─ 人類が旅した一千億分の八 ─

小野雅裕

銀河系には約1000億個もの惑星が存在すると言われています。そのうち人類が歩いた惑星は地球のただひとつ。無人探査機が近くを通り過ぎただけのものを含めても、8個しかありません。人類の宇宙への旅は、まだ始まったばかりなのです…。 NASA...もっと読む

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コメント

tipi012011 素敵な詩だ。 2年以上前 replyretweetfavorite

tomshirai このメタファー、感動する…。 2年以上前 replyretweetfavorite

uchu_kyodai NASAの研究者 小野雅裕がひも解く、宇宙への旅。 2年以上前 replyretweetfavorite