河邉徹
夢の世界と現実の自分とのギャップ
【理想の夢⑫】
目を覚ますと、夢が叶うどころか何も変わらない日常のままだった。しかし、夢工場はある意味彼の願いを叶えてくれていた。その時、自分は、「夢」というものが必ずしもその人を幸せにするために存在するものでないことを知る

イラスト:堀越ジェシーありさ
「出口まで案内します」
そう言って扉を開いて歩き出した。加藤がついて行くと、扉の先には長い廊下が続いていた。レンガを積み重ねた壁に、床には幾何学模様のカーペットが敷かれてある。以前に仕事で訪れた小さなストリーミング会社の入り口に似てるな、と思った。
管理人は一つ目の、右手にある扉の前で立ち止まった。
「こちらです」
手のひらで丁寧に扉を指した。
「最後に質問があるんだが」
「何でしょう?」
管理人は小首を傾げた。
「ここに弓木っていうヤツが来なかったか?」
管理人は、腕を組んで天井を見上げた。記憶を辿っているようだった。まるでパソコンが何か処理している時に、カーソルがくるくる回転している感じだ。
「弓木さん、来ましたね。お知り合いでしたか?」
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この連載について
河邉徹
WEAVERのドラマー・河邊徹の作家デビュー作。バンドで作詞を担当してきた河邊の
〝言葉の世界〟をドラムスティックからペンに持ち替え、描いた「夢」をテーマにした長編作。
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著者プロフィール
1988年6月28日、兵庫県生まれ。関西学院大学 文学部 文化歴史学科 哲学倫理学専修 卒。ピアノ、ドラム、エレクトリック・ベースの3ピースバンド・WEAVERのドラマーとして2009年10月メジャーデビュー。バンドでは作詞を担当。
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