名刺ゲーム

夢すら見れない奴が、人の夢を笑ってんじゃねえぞ。

自分の人生にあんまり本気になると裏切られた時に哀しくなる――そう思っていた僕は、制作会社で片山さんというディレクターに出会った。カッコいい仕事をする憧れの先輩だったのに、独立した彼には守るものができたからか、プロデューサーにやたらと気を遣うようになった。結局本気になる奴が損をするのだろうか……? 心に響くモノローグが満載の『名刺ゲーム』!

3rd Stage
3  NEXT Change ディレクター 松永累

 神田さん、返してきました、僕の名刺を。「NextChange ディレクター 松永累」の名刺。やっぱり覚えてなかった。

 初めて「ミステリースパイ」のスタッフとして参加した会議の日は最悪でした。一人のクイズ作家さん、木山光さんが神田さんをカンカンに怒らせてしまった日。だけど、挨拶だけはしとかないとまずいって話になって。神田さんのデスクまで行って名刺を渡すと、片手で受け取ってチラッとだけ僕を見た。

—君、知ってた? 鮭が白身だって。

 なんでしょう。この世界に入って、初めて後ろ向きな気持ちになりました。

 自分がこの世界に入ったきっかけ。僕、片山さんに会ってなかったらこの世界に入ってなかったです、絶対。

 大学三年の時から就活したけど、落ちまくって。まあ、バイトでもしばらくやっていけばいいか的な気持ちでした。どうせ就職してもパワハラで鬱になって辞めた人とか、会社が潰れちゃって路頭に迷ってる先輩とか見てたから、本気で働かなくてもいいかなって。自分の人生にあんまり本気になると裏切られた時に哀しくなるかなって。そうですよ、人生って裏切るんだなって思います。

—大学四年の夏に、サークルのOBにバイトを頼まれました。誰だって、テレビの世界に興味ないと言ったら噓になりますよね。先輩は「WORK SHOP」という大きな制作会社の社員で、その人に頼まれたんです。夏休みの間だけのAD雑用的感じでね。芸人さんとかアイドルに会えたらラッキーぐらいなもんでしたよ、最初は。

 でも、僕はそこで出会ったんです。会えたんですよ、片山さんに。もちろん片山さんの名前も知りませんでした。あの頃はまだ片山さんも「WORK SHOP」の社員でした。

 僕がバイトのADをしたのは、深夜の「デッドオアアライブ」っていう番組。芸人さんが体を張って色んなチャレンジをするやつで、片山さんはその番組の総合演出だった。僕が初めて行った収録は、「キャベツ・レタスクイズ」っていう企画。格闘家が芸人さんの前にキャベツかレタスのどっちかを出す。芸人さんは瞬時にしてそれがキャベツかレタスかを答える、っていうバカバカしいクイズ。けど、一瞬でキャベツかレタスかを見分けるって難しい。これ、片山さんが考えたクイズだそうです。芸人さんが間違えた瞬間に、格闘家が持っているキャベツかレタスで頭を思い切り殴られる。レタスだったらいいけど、キャベツで間違えた場合はかなりのダメージですよ。

 収録前のリハーサル。この日が僕にとっての初日。見学気分でいると、格闘家の人が片山さんに不安そうに言ったんです。「さすがにキャベツでも本気で叩いたら危険なんじゃないかな」って。そしたら片山さん、詰め寄るように言いました。

—あんたが危険だと思って叩いたら危険なの! 思い切りが必要なの。

 片山さん、キャベツを渡して「俺の頭、そのキャベツで本気で叩いて」って叩かせたんです。格闘家は叩きました、多分五〇%くらいの力で。

—そんなんじゃ全然笑えないよ。

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名刺ゲーム

鈴木おさむ

家族も部下も切り捨て、人気クイズ番組のプロデューサーまで上り詰めた神田達也。ある夜、息子を人質にとられた神田は謎の男から「名刺ゲーム」への参加を命じられる。だがそれは、人間の本性を剥きだしにしていく《狂気のゲーム》だった――。WOWO...もっと読む

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