「実は、十本のゲームのうち一本だけ問題があってね。その一本のゲームには、複数の問題があるんだよ。それを解決しないと、この企画そのものが流れるんだ」
なるほど、だからこその条件というわけか。そして、その解決も込みでの依頼ということか。
山崎は、緊張した面持ちでページをめくる。
──問題一。海賊版。
その文字を見て、灰江田は思い出す。そういえば先ほど、海賊版という言葉が出たときに山崎が反応した。海賊版が出ているから正規版が売れない。その撲滅をやれということなのか。しかしそれなら、白鳳アミューズメントの版権管理部か法務部がやればよい。そして山崎は版権管理部の部長で、以前は法務部にいた。なにか白鳳アミューズメントが動けない理由があるのか。
「一本だけと言いましたよね。どのゲームなんですか」
「Aホークツインというゲームでね」
その名前が出た瞬間、コーギーが話に割り込んできた。
「Aホークツインは、Aホークの続編で、UGOブランド最後のゲームです。Aはエース、エアー、アンガーなどの略で、自機の鷹を操るシューティングゲームです。開発者の赤瀬裕吾さんは、このゲームをリリースした数ヶ月後に会社を辞めています」
退職しているということか。それは穏やかではないなと灰江田は思う。
「しかしまあ、よく、そんな社内事情を知っているな」
「ネットで調べました。攻略サイトの情報を充実させるために」
「そうかい。そりゃあ、がんばったなあ」
コーギーは恥ずかしそうに頭をかく。コーギーは素直すぎて皮肉が通じない。本当は、そこまで詳しいのはどうかしていると言いたかったんだが。
灰江田は山崎に視線を戻し、先を続けるように促す。山崎はうなずき、説明を再開する。
「このAホークツインの勝手移植版が、Android向けに無断リリースされているんだ。価格は無料。当時そのままの内容だよ。このまま放っておくと、まあ正規版は売れないだろうなという見込みが立つんだ」
「つまり、海賊版を潰すところも、こちらに丸投げなんですね」
「うん、まあ、それもあるんだけどね」
山崎は歯切れ悪く言う。Androidはスマートフォンの一種だ。もう一つのスマートフォンであるiPhoneと比べて、アプリ公開時の審査が緩い。そのため海賊版を出しやすくなっている。
「移植した相手を引きずり出して、アプリの公開を差し止める。これは下請けの仕事じゃないです。そちらの版権管理部か法務部の仕事ですよね」
灰江田は厳しい顔を山崎に向ける。
「ははは、そうなんだよ、本来はね」
そんなことは山崎だって百も承知だろう。灰江田は、テーブルの上の資料を見た。問題一と書いてある。一ということは二もある。先ほど山崎は、複数の問題があると言っていた。
「それで、問題二はなんですか。山崎さんの様子から、二の方が大きな問題に思えるんですが」
「うん、実はそうなんだよ。これが一筋縄ではいかなくてね」
言いにくそうに話したあと、山崎はページをめくる。
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