柳井政和「レトロゲームファクトリー」

柳井政和「レトロゲームファクトリー」第8回

大手ゲーム会社グリムギルドから契約破棄され、プログラマーの白野高義(コーギー)は途方に暮れていた。そんな彼を救ったのは、元同社社員の灰江田直樹。彼はレトロゲームを最新機用に移植する会社「レトロゲームファクトリー」を興していた。白野は灰江田に懇願し、彼の元で働き始めた。ある日、業界大手である白鳳アミューズメントの山崎が現れ、彼らに極秘案件を依頼する――。
電子書籍文芸誌「yom yom」に掲載中の人気連載を出張公開。

「それで、どういった内容なんですか」  
 灰江田は、ナナが運んできたコーヒーを一口飲み、山崎の言葉を待った。コーギーも灰江田の隣で山崎に視線を注いでいる。
「実はね、持ってきた仕事なんだけど、いい話と悪い話があるんだ。どちらから聞きたいかい」  
 また面倒そうな案件だな。灰江田は腕を組み、隣に座るコーギーの様子を窺う。  
 コーギーは殊勝そうな顔で姿勢を正している。素直でいい奴なんだが、素直すぎるのが欠点だ。ここは社長である俺が、積極的に話を進めるべきだろう。
「じゃあ、いい方の話から聞かせてください」  
 これでやる気が出なければ、悪い方の話を聞くまでもない。山崎は、待ってましたとばかりに鞄を開けて、資料を出す。そして、こちらに表紙が見えるようにテーブルの上に置いた。  
 ──UGO(ユーゴー)コレクション。  
 表紙には、そのタイトルがMS明朝の斜体で書いてある。その下にはワードの図形機能で描いた、貧相なイラストがあった。相変わらずデザインセンスが皆無だ。山崎のデザインセンスのひどさは、周囲の人が毎回頭を悩ませ、他社に評判が届くほどだ。  
 山崎と奥さんが出会った縁は、その欠点だったと聞いている。同じ会社のデザイナーである奥さんが、山崎の資料を見て、あまりのひどさに見かねて手伝ったことが馴れ初めだったらしい。しかし山崎自身は能力不足の自覚がなく、得意満面に毎回資料を作ってくる。
「それじゃあ、ページをめくるよ」  
 山崎は嬉しそうに紙の端を持ち上げる。  
 なぜ本文のフォントに、ダサいことで有名な創英角ポップ体を使うんだ。灰江田は頭が痛くなりながら、紙の中央に大きく印刷された文字を読む。  
 ──ファミコン時代のUGOブランドのゲーム十本を、スマートフォンや各種ゲーム機に完全移植。  UGO──その名前を灰江田は思い出す。灰江田の少年時代、ファミコン全盛期の頃の白鳳アミューズメントには、複数の開発ラインが走っていた。その一つ、赤瀬裕吾(あかせゆうご)という、ディレクター兼プログラマーが作った一連のゲームがある。それらをネット時代以降、UGOブランドと呼ぶ者たちが現れた。  
 ファミコンが日本を席巻したのは、もう三十年も昔である。ファミコン──ファミリーコンピュータ──は、一九八三年の七月十五日に任天堂より発売された。次世代機にあたるスーパーファミコンの発売は、一九九〇年の十一月二十一日。一九八三年から一九九〇年の七年間が、ファミコンの全盛期になる。二〇一三年にはファミコン発売三十周年、二〇二〇年にはスーパーファミコン発売三十周年。四半世紀以上の時間が、すでに経過している。一九七〇年代、八〇年代に生まれた子供たちは、学校から帰ると親に怒られながら、これらのゲーム機で延々と遊んだ。
「知っていますよ、山崎さん。僕、UGOブランドのゲーム、大好きですから」  
 コーギーが、いきなり食いついてきた。
「知ってんのか、おまえ」  
 灰江田は呆れながら言う。  
 コーギーは二十二歳。ファミコン全盛期どころか、スーパーファミコン発売の年にも、まだ生まれていない。そうしたリアルタイムに体験していない年齢のくせに、コーギーはやたらとレトロゲームに詳しく、遊びまくっている。以前、なぜそんなにレトロゲームを知っているのかと尋ねたが、黙り込んで答えてくれなかった。
「僕、UGOブランドのゲームの攻略サイトを運営しているんです。情報を募っていて、けっこうな数の投稿があるんですよ」  
 灰江田は、思わずコーヒーを噴き出しそうになる。知っているどころではなく積極的に情報発信をしているのかよ。赤瀬のゲームが、UGOブランドと呼ばれている理由の何割かは、こいつのせいかもしれないと思った。
「UGOブランド、全十本の移植、是非やりたいです」  
 社長の灰江田の意向を確かめず、コーギーは嬉々として言う。
「おいおい、きちんと話を最後まで聞いて、俺が判断するからさ」

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新潮社
2018-03-16

この連載について

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柳井政和「レトロゲームファクトリー」

柳井政和 /新潮社yom yom編集部

失踪した伝説的ゲームクリエイターの謎を追え――。 『裏切りのプログラム ハッカー探偵 鹿敷堂桂馬』で小説家デビューを果たした プログラマー・ゲーム開発者が贈る、本格ゲーム業界小説! 電子書籍文芸誌「yom yom」に...もっと読む

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ruten 小説『レトロゲームファクトリー』のcakes連載第8回が、5/3に公開されました。ゲーム好きの人も小説好きの人も是非。 https://t.co/PJZT2esOuv #cakes #小説 #ゲーム #レトロゲーム https://t.co/oiofV18qTP 約1年前 replyretweetfavorite

ruten 小説『レトロゲームファクトリー』のcakes連載第8回が、5/3に公開されました。ゲーム好きの人も小説好きの人も是非。 https://t.co/PJZT2esOuv #cakes #小説 #ゲーム #レトロゲーム https://t.co/59GVFS0tdK 約1年前 replyretweetfavorite